ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

クウェイカー(Kveikur) / シガー・ロス(Sigur Ros)

クウェイカー
  先日ライブレポートしたシガー・ロスの新譜「クウェイカ」が届きました。で、到着したCDが日本盤だったのであれ?誤配かなと一瞬戸惑いましたが、帯を見て思い出しました。Blu-Spec CD仕様と書いてあったのでシガー・ロスのアルバムとしては初めて日本盤をチョイスしてみたのでした。

 黒のバックに奇妙な意匠の表ジャケです。これは日本語ライナーノート(新谷洋子さん)によりますと

ブラジルのアート界をリードした画家・彫刻家のリジア・クラーク(1920-88)が1967年に製作した作品「Mascaras Sensorias」の一部

だそうです。シガー・ロスのメンバーはそのマスクが醸す仮装っぽい雰囲気に惹かれたのだそうです。個人的にはなんとなくKKKっぽい感じが不気味で好きにはなれませんが、中身はさすがと唸らせる凄さ。前作の「Valtari」とは対照的な凄まじい轟音の洪水です。
 先日のコンサート記事で「静のValtariに対して動のKveikurとなる」と書いたとおり、ある程度予想はついていましたが、新しいプリアンプC-3800が覚醒してきたこともあって、久々に中高音が肌に突き刺さり、低音がボディーブロウのように腹にずしんと響く体験をさせていただきました。快感です(w。

1. Brennisteinn 
2. Hrafntinna 
3. Isjaki 
4. Yfirbord 
5. Stormur 
6. Kveikur 
7. Rafstraumur 
8. Blapradur 
9. Var 
10. Hryggjarsula (ボーナストラック) 
11. Ofbirta (ボーナストラック) 

アイスランドを代表する唯一無二の存在、シガー・ロスが7枚目となるスタジオ・アルバムをリリース! シガー・ロスのキャリア史上最高位となる全米7位、全英8位を獲得した前作『ヴァルタリ ~遠い鼓動』から、11ヵ月という短いスパンでリリースされる本作は、バンドの溢れんばかりの情熱とアイデアをアルバムにフルで封じ込めた崇高な作品が完成。
日本先行発売  日本盤ボーナストラック2曲収録  Blu-spec(R)仕様 ライナーノーツ付
AMAZON解説より)

 先日のコンサートでは本チャンのトリで演奏した「Brennisteinn」で幕を開けます。ゴゴゴゴ、という地鳴りのようなノイズが冒頭に入り、その直後に爆音で演奏が始まります。ライナーを書いた新谷洋子さんの

シガー・ロスドゥーム・メタル

という表現がまさにしっくりと来る、重心の低いヴァイオレントな、それでいて暗くも美しいメロディラインが聴くものをあっという間にシガー・ロスの世界に引き込んでいきます。コンサートで聴いた時も凄かったですが、こうして完成されたアルバムの曲として聴くとあらためてシガー・ロスはロックバンドである、ということを再認識します。

 続いて二曲目「Hrafntinna」はヨンシーのボーカルが荘厳ささえ漂わせ、とてもよいアルバムの流れを序盤で形成しています。

 そして3~5曲目の「Isjaki」「Yfirbord」「Stormur」は新谷洋子さん曰く「前代未聞の踊れるシガー・ロス」 。紛れも無いシガー・ロスサウンドなんですが、確かにオッリのドラムの乗りがいい。

 そして6曲目はアルバムタイトル「Kveikur」。コンサートでも披露してくれた曲ですが、題名の意味はヨンシーインタビューによりますと

「””という意味なのですが、ロウソクの芯というよりは爆弾の導火線という意味でつけました。今作は制作するにあたって、新たな衝動や興奮、そしてここから何かをスパークさせるという気持ちがあったので、その感覚に最も適した単語だと思ったのです」

ということだそうです。アルバム全体の事を言っているのですが、この曲にその思いが凝縮されているように思います。再び「Brennisteinn」のようなノイジーなイントロから始まる荒々しい雰囲気を持つ曲ですが、ライブで聴くと不思議な美しさを内包していました。このアルバムではディストーションのかかった激しくノイジーな楽器の音のカオスの中からヨンシーのボーカルがくっきりと浮かび上がっており、やはりヨンシーのファルセットがこの曲の美しさの肝なのだと思います。

 「Kveikur」に負けない激しさを持った前半と終盤の美しさの対比が見事な「Rafstraumur」を経て、ややValtariのアンビエントっぽい感じを抱かせる「Blapradur」、そして「takk...」以降のエンディングパターンであるピアノの静かな演奏「Var」と、三曲をかけて徐々にクールダウンしていく後半の構成も見事。

 ああ終わった、と満足していたらまた轟音が(笑。そう、日本盤にはボーナストラックが二曲ついていたのでした。シガー・ロスでボーナストラックを聴くのは初めてなので斬新な経験でした。でもやっぱり「Var」で終わってこそのアルバム構成かなと思います。

 キャータンが抜けて3ピースになったのは本当に残念ですが、その三人だけでもこれだけのアルバムを作れる実力、さすがシガー・ロスです。コンサートの余韻も冷め切らぬうちに聴いているので評価の甘い面もあるかも知れませんが、それを差し引いても静のValtariと並ぶ、ロックバンドとしての力量を見せ付けた動のシガー・ロスの傑作だと思います。

 なお、ValtariとKveikurの製作状況の違いがライナーノートには詳細に書かれていて興味深いですが、音の判断には無用です。未聴の方には是非二作品をセットでお聴きいただきたいと思います。