ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Billy Bat 8 / 浦沢直樹

BILLY BAT(8) (モーニング KC)
 浦沢直樹Billy Bat、早や8巻目に突入です。前巻ではケネディ暗殺事件という一大事件とビリー・バットの関わりをスリリングに描きながら、舞台が日本へ移ることを予感させました。本巻では予想通り、というか予想以上にスピーディに話が進み、いよいよ舞台は日本、過去の人物も次々と姿を現し、大きなうねりが紀伊半島のある一寒村へ収斂していきます。

ケネディ大統領暗殺阻止に失敗し、失意の中のケヴィン。そんな彼を襲う奇妙なヴィジョン! ……四百年前の戦国時代、勘兵衛という名の忍者の、巻物を巡る戦い……その巻物を、月に運べと叫ぶ宣教師ザビエルの姿……コウモリの指令に従い、東京オリンピックに沸く日本を再訪したケヴィンは、ビリーバットの秘密、歴史を司る「蝙蝠の巻物」の謎を遂につかむのか!?(AMAZON解説より)』

 本作のハイライトの一つは、ビリー・バットが見える二人、百地家の末裔ジャッキー・モモチと本作の主人公ケヴィン・ヤマガタがついに出会うことでしょう。ジャッキーのコミカルな描写とケヴィンのますます陰鬱になる表情の対比、ジャッキーから「ダラスにいましたよね」と言われた時のケヴィンの驚きの表情など、浦沢直樹のツボを心得た作画は安心感があります。

 他にも、まるで二十世紀少年を再読するような東京オリンピックに沸く日本の情景、先に目的地に着いた謎の外人が起こす陰惨な連続殺人事件等々、まだクライマックス前とは言え、結構見所の多い巻だな、という印象を受けました。ファンにはうれしいことに元祖「ビリー・バット」作者雑風先生もついに登場しますし。個人的にうれしかったのは鈴木孫一の名前が出てきたこと。紀州の有名な武装集団雑賀(さいが)衆の頭領ですが、司馬遼太郎先生の「尻啖え孫市」という大変面白い小説の主人公になった人物です。興味のある方は是非ご一読ください。 

 そして、「巻物」の持つ具体的な意味が意外な人物のそれと知らない話によって示唆されます。二次元の兵隊1万人が三次元の人間一人にかなわないように、四次元を支配するもの、すなわち時間軸を支配できるものは歴史を支配できる。。。単純に言うとタイムマシンについて書いてある可能性が高いようです。って、ここに至るまでの目まぐるしい展開と白と黒のビリーバットの自在な出現により大体予想はついていた、という人は多いと思いますが。

 次号ではケヴィンとジャッキーがいよいよ目的地へ入り、佳境に達するのではないかと思います。楽しみです。