ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

コンテイジョン

Contagion_2
 昨日は公開中の洋画「コンテイジョン」を観てきました。昨世紀前半のスペイン風邪や近年のSARS,新型インフルエンザなどに代表されるパンデミックを扱った映画ですが、安易なパニック映画に陥らず、かつ、終わった後は何に触るにもドキッとしてしまうほどのリアリティに溢れる秀逸な「恐怖」映画でした。

『2011年アメリカ映画

監督: スティーブン・ソダーバーグ
脚本: スコット・Z・バーンズ

キャスト: マリオン・コティヤールマット・デイモンローレンス・フィッシュバーンジュード・ロウグウィネス・パルトロウケイト・ウィンスレットブライアン・クランストン

トラフィック」「オーシャンズ11」のスティーブン・ソダーバーグ監督が、マリオン・コティヤールマット・デイモンジュード・ロウケイト・ウィンスレットら豪華キャストを迎え、地球規模で新種のウィルスが感染拡大していく恐怖を描いたサスペンス大作。接触感染により数日で命を落とすという強力な新種ウィルスが香港で発生。感染は瞬く間に世界中に拡大していく。見えないウィルスの脅威に人々はパニックに襲われ、その恐怖の中で生き残るための道を探っていく。(映画.comより)』

 まず何といっても秀逸なのが脚本。医学的な情報も正確ですし、脚本のスコット・バーンズは相当勉強した上で迫真の物語を作り上げましたね。冒頭、映画はタイトルロールなしにいきなり

Day 2

から始まります。何故「Day 1」をとばしたのか?それは最後の最後に驚愕の真実とともに明らかになり、観るものを唸らせ考え込ませた上で、最後にタイトルロール

CONTAGION(伝染)」

が画面に浮かび上がります。この見事な構成には脱帽です。やはり映画は脚本だなあ、とあらためて思いました。敢えて言うと、この最後の真実を(今の段階でネタバレさせる訳にいかないので内容は伏せますが)、説教くさい啓発ととるか否かでこの映画の評価は分かれると思います。個人的には、十分にありうる設定であると思いますので納得させられました。

 もちろんストーリーもよく練られており、まるで良質のドキュメンタリーを観るかのようです。CDC、WHOと言う実在の組織の活動、それに属する人々の奮闘と心の葛藤、そして

「Nothing Spreads Like Fear」

との惹句に示されるように、病気自体をおどろおどろしく見せ付けるのではなく、伝染の恐怖から虚実ない交ぜの情報に踊り、踊らされれる人々の模様を実に丹念に描いており、観るものを飽きさせません。殊に今の時代らしく、TwitterFacebookもうまく織り込んであります。

 オーシャンズ・シリーズなどで群像劇はお手の物の名匠スティーブン・ソダーバーグの演出も見事です。といっても、その手法は180度異なり、オーシャンズでは主人公を演じる俳優の個性を活かす手法をとっているのに対し、この映画では綺羅星のごとくの名優たちを敢えてそうと気づかせることなく、完全にその役柄に徹しさせています。だから、エンドロール最初の主人公級のクレジットで、

「えっ、○○が出ていたの、全然気がつかなかった!?」

という驚きの声があちこちで上がっていました。かく言う私も「ヒアアフター」を見たばかりだったのに、始まってしばらくの間、マット・デイモンに気がつきませんでした。マジですよ、お恥ずかしい(笑。

 もちろん役に徹しきった俳優たちも見事。敢えて個性が際立っていた人を挙げると、金儲けと煽動を企むフリー・ジャーナリストを演じていたジュード・ロウでしょうか。演技の重厚さではCDCの人間味溢れる高官を演じるローレンス・フィッシュバーン。彼はマトリックス・シリーズのモーフィアスですね、懐かしかったですが、随分貫禄がついていました。

 女優陣も豪華。最初の感染者で壮絶な脳炎の演技を見せるグウィネス・パルトロウ、調査官で誘拐されながらもその拉致先の人々に感情移入するマリオン・コティヤール、医師で感染源の調査中に自らも犠牲になってしまうケイト・ウィンスレット、いずれも確固たる地位を築いた名優ばかりですが、個人的には「エディット・ピアフ」「インセプション」と映画ごとに異なった顔を見せてくれるマリオン・コティヤールが魅力的でした。

 邦画でパンデミックモノと言えば「感染列島」という映画がありましたが、この二つの映画を見比べれば彼我の実力の差は残念ながら明らかです。このブログで何度も指摘していますが、邦画も安易に漫画や小説に頼ることなく、本当にいい脚本を書ける人材を育ててほしいものです。

 というわけで、監督、脚本、俳優と三拍子揃った秀作ですので、今更パンデミック映画か、という先入観なしに観ていただきたいと思います。

評価: B: 秀作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)