ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

TPP協定の医療分野に与える影響

 たまにはまじめな記事を。日本の将来がかかっているといわれるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の話です。

 先日のAPECでTPP協議参加を表明した野田総理ですが、会合にはオブサーバー参加さえさせてもらえなかったそうで、本当に情けないですね。でもって、入るならTPP協定は全て守ってもらいますよ、てなことになりそうな気配十分です。となると、農業医療センシティブ項目(当該国にとって、重要かつ輸入の増加による悪影響を受ける品目)として例外項目としてもらいたいという日本の主張がまかり通るのか、はなはだ疑問です。

 農業が蒙る不利益は比較的理解しやすいし報道も多いのですが、医療分野のおける不利益はどういうものがあるのか?これに関する情報が乏しく、私の専門分野であるにもかかわらず、混合診療や外国人ナースの増加が進むのかな、という程度の認識しか持ち合わせていませんでした。

 そんな折、私の所属する県医師会からある程度のまとめが出ました。読んでみますと協定分野21分野中8分野に影響が出る。それも壊滅的な打撃を被る可能性が大。。。
 分かりにくいとは思いますが、簡単なまとめを抜粋して転載してみます。

1: 物品市場アクセス センシティブ品目も総て関税の撤廃・削減の対象とし、例外を認めない。

→ 医療の世界に市場原理が導入される。

4: SPS(衛生植物検疫) 措置の同等、地域主義の導入。輸出国の措置が輸入国と異なっても輸入を認める可能性がある、また病害虫発生国であっても清浄地域において生産されたものならば輸入が認められる。

日本独自の検疫上の保護水準を確保できない。

5: TBT(貿易の技術的障害) 安全環境保全の目的で定められた規格が貿易の障害とならぬようにルールを定める。またこの規格を策定するときに相手国の利害関係者の参加を認める。

→ 遺伝子組み換え産物等の表示が不可能となる。

6: 貿易救済(セーフガード措置) 同一品目に対するセーフガード(輸入急増のため国内産業に被害を生じる場合、産業保護のために一時的にとることができる緊急措置)の再発動を禁止。

→ 安価ではあるが、安全性と成分に疑問が残る薬剤や食品の増加。

7: 政府調達(いわゆる市場アクセスの約束範囲) 中央政府や地方行政等による物品・サービスの調達に関して、外国人と自国民に対し同等の待遇を与える。

→ 国公立病院等への薬剤・医療機器購入や人材調達問題に波及。

9: 競争政策 貿易・投資の自由化で得られる利益が、カルテル等により害されるのを防ぐため、競争法・政策の強化改善を行う。

→ ISD条項(国家と投資家の間の紛争解決手続)とも絡んで、我国の主権の侵害や国民皆保険制度の崩壊の危機。

10: 越境サービス貿易 国境を越えるサービスの提供に対する無差別原則、数量規制、形態制限の禁止、そしてそのラチェット(歯止め)規定(協定発行後自由化した規制水準を後戻りさせない)

保険・医療機器をはじめ数多くの分野で市場開放をし過ぎたと悔やんでも再度規制を強化することが許されない。

    専門家資格の承認
医師・看護師等の免許相互承認による医療の質の低下

11: 投資 ISD条項が含まれており、我国が医療等公益の利益のために新たに制定した政策によって、海外の投資家や企業が不利益を蒙った場合には、その投資家や企業が不利益を被った場合には、その投資家や企業から日本が訴えられることになる。

我国の国民健康保険制度を強化改善する政策をとった場合、アメリカの生命保険会社は民間医療保険市場が縮小されたと損害賠償請求訴訟を起こすことが可能。
 たとえば混合診療を一部でも認めれば必ずアメリカの保険会社が自費の部分の補填のために大挙して参入する。そしてその後、やはり混合診療は国民のためにならないからやめますということになれば、当然保険の市場が狭まるのでISD条項を使って米保険会社が日本を訴えることになり、損失分は国が払わなければならなくなる。

 
 まあこれだけ読むと、国民の健康を長きに渡って支えてきた国民皆保険制度は致命的な危機に瀕すること間違いなしです。とはいえ、いきなりの完全撤廃はないだろうし、デメリットだけではないことも事実でしょう。
 しかしまず「物品」である医薬品が手始めになり、やがてこれら総てが認められていけば、決して「後戻り」は許されないのです。省庁、政府もそれが分かっていてTPPに参加しましょうと言ってるのですから、いくらセンシティブ項目に指定しているとはいえ確信犯的な行動であると言わざるを得ないですね。