ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

60万ヒット御礼と「わたしを離さないで」にまつわるお話

Never Let Me Go (Movie Tie-In Edition) (Vintage International)
( Never Let Me Go by Kazuo Ishiguro, Paperback )
 昨日はネットを見るのが遅くなり、気がつくと拙ブログのヒット数が60万を越えておりました。常連の皆様はじめ、見ていただいた方々に深く御礼申し上げます。
 このブログも今月で満7年になります。随分遠くまで来たなあ、これからまだどれくらい行けるんだろうか、といろいろな思いが心中を交錯します。昔のようなハイペースはとても無理ですが、とりあえず今後もゆったりとではありますが更新していきたいと思っております。よろしければ今後ともよろしくお願いします。

 50万ヒット以降の10万アクセスの中で特に印象が強い、と言うか正直驚いているのは、映画「わたしを離さないで(Never Let Me Go)」記事への異常なアクセス集中です。何しろトップページより多い日が何週間も続くという今まで有り得ないアクセスが続き、現在までに短期間の記事別アクセスでは過去に記憶がない6000ヒットを超えるという閲覧をいただいています。

 おそらくNHKで原作小説の作者カズオ・イシグロのインタビューが放映された影響が強いのであろうと推測していますが、それにしても「仁」や「マルモ」のような視聴率があったわけでなし、彼が、例えば私のブログで度々取り上げるほかの作家、村上春樹ポール・オースターほど日本でポピュラーな作家とも思えません。
 また、映画自体も私自身が遠方まで出かけなければならなかったほど上映館が少ない謂わばミニシアター系のカルト作品に近い扱いでした。

 というわけで、常識的に考えればこれほどのアクセスは有り得ないと考えざるを得ません。その上で敢えてその理由を挙げるとすれば、非常に単純ではありますが、

・映画の出来がよかったこと
・原作小説が優れていること

の二点しかないと思います。私自身も今年上半期で最も印象に残る洋画を挙げろと言われれば、躊躇なくこの映画を選びます。実は感激のあまり、ペイパーバックを購入してしまいました。

 土屋政雄氏の訳で既に2回読んでおりましたので、殆ど辞書なしでスイスイ読めるだろうと予想していたのですが、そう簡単にはいきませんでした。逆に土屋氏の邦訳のイメージとかなり違う世界に迷い込んでしまったのではないかという戸惑いが、読み進めるうちに段々強くなってきました。
 この戸惑いを引きずったままではこれ以上進めないと第一章の途中で観念し、一から読み直すことにしました。それからというもの、原文と土屋氏訳を一文一文突合しながら読み進めるという大学教養時代の授業以来ではないかという地道な作業が始まり、終わるまでに2ヶ月を要しました。

 その結果を簡単に言い切ってしまうと次の二点に集約されます。

・ 土屋政雄氏の訳が唯一無二ではない
・ しかし土屋氏の訳はやはり名訳である

 もちろんカズオ・イシグロの原作が傑作であることは論を待ちません。最後の文章は映画の鮮やかなイメージとも相まって涙をこらえきれませんでした。

 今後このブログがどれくらい続くのか、全く見当はつきませんが、またこのような素晴らしい作品との邂逅があり、それをご紹介できることを願っています。