ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

剣と楓/ 鬼束ちひろ

剣と楓
剣と楓
 フォーライフに移籍した鬼束ちひろの新譜です。演歌のアルバムかと見紛うようなジャケ写真、その裏には黒のバックに「これが 未来の 犯罪者」と印刷されており、更には裏表紙の裏で「私は 過去を 犯せる」との締めくくっております。さあ、相当大変なアルバムのようですが、どうでしょうか、聴いてみましょう。

1. 青い鳥
2. 夢かも知れない
3. EVER AFTER
4. IRIS
5. 僕を忘れないで
6. An Fhideag Airgid
7. SUNNY ROSE
8. NEW AGE STRANGER
9. CANDY GIRL
10. 罪の向こう 銀の幕
11. WANNA BE A HAPPY WARRIOR
12. 琥珀の雪

『 初のオール・セルフ・プロデュース作品となる、鬼束ちひろの6thアルバム『『剣と楓』。レーベル移籍を経て、1年半ぶりにファンの元に届けられたこの待望の新作は、“原点回帰作”と呼ぶのに相応しい、鬼束節の楽曲を中心としながらも、中には4つ打ちのエレクトロ・チューン(「NEW AGE STRANGER」)や、元気いっぱいのアップ・ナンバー(「EVER AFTER」「CANDY GIRL」)、そしてスコットランドの民謡(「An Fhideag Airgid」)なども収録された、幅広い内容の作品に仕上がっている。感性やその場のノリで楽曲制作をするという鬼束ちひろ、まさにこの1年半、ヴァリエーションに富んだ日々をおくっていたことが想像できる。サウンド・プロデューサー陣には、坂本昌之(平原綾香徳永英明等)をはじめ、エリック・ゴーフィン(ジェイムス・ブラント、クリスティーナ・アギレラダニエル・パウター等)、John John Festival(日本を代表するアイルランド音楽ユニット)を起用し、日本とロサンゼルスでレコーディングされたという。久々に触れることのできた、妖しくも美しい“鬼束ワールド”。今後の活動への期待で、胸が膨らむ。 (VIBE/猪俣ロミ) 』

 さすが初セルフ・プロデュース作だけあって、まとまりは無い(笑。冗談はともかく、思い付きと乗りで日本とアメリカでレコーディングをしていった、とインタビューで語っているそのままの出来上がり、という印象が強いです。

 所謂「鬼束節」と称される彼女ならではのバラード曲が1、2、5、10、12あたり、特に東芝EMI時代の彼女が好きな人には10「罪の向こう 銀の幕」、12「琥珀の雪」が沁みると思います。逆に言えば終盤まで我慢しろという事になりますが。そして「Dorothy」あたりで見せたややアップテンポの ロッカバラードが1、2あたり。1「青い鳥」がシングルカットされますが、長期休養のあとずっと気になっている声量の無さややや不安定な音程が気にはなります。彼女も従来のファンが期待するのは「琥珀の雪」みたいな曲だろうけど、みたいな事を言ってますので分かってはいるんでしょうけれど。

 そして彼女が志向するロック調の曲が3「EVER AFTER」、9「CANDY GIRL」あたり。破綻はしていないものの果たして彼女の声質や歌唱法に合っているのかどうかはやはり疑問。インタビューで「買いたければ買えばいい」と突き放している彼女の事ですから、大きな御世話と言われそうですが。

 そして何故かいきなりゲール語スコットランド民謡6「An Fhideag Airgid」、それに引き続くケルト風の曲7「SUNNY ROSE」、イコライジング処理で一体誰が歌っているんだと突っ込みを入れたくなる打ち込みエレクトロニカ8「NEW AGE STRANGER」、初期の「Our Song」を思い出アコースティックなバラード11「WANNA BE A HAPPY WARRIOR」は英語と、外国語の曲も4曲こなしております。突発的ケルト志向も、単に気が向いたから、と言うところなんでしょうけど、決してネイティブ英語が話せるわけでは無い彼女には一アルバムに英語1~2曲程度が適切な限界じゃないかなと思います。

 とまあいろいろ注文をつけるのも、「鬼束節」の持つ魔性の魅力が、今尚他を圧倒するだけの力を持っているからで、まずそれを彼女が自覚し、更には彼女を制御できるだけの豪腕プロデューサーがついてくれればなあ、と思います。DV騒動やタトゥー、更には奇矯なインタビューと、今彼女を制御するのは難しいのかもしれませんが、折角の天才的な才能をあたら潰さないでほしい、そして願わくばヴォイス・トレーニングをきっちりとやってほしいと願います。

あの日土に埋めた言葉たちが
いつか私を追いつめたとしても
どうせすべて許されないのなら
逃げ場はいらない

限界は雨を降らせて
この口を塞ぐあらゆる体温
完璧な愛情が怖かった
そんな自分が怖かった

(罪の向こう 銀の幕)