ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

生物多様性とは何か / 井田徹治

生物多様性とは何か (岩波新書)
生命の形の多様さ、それはこの惑星での最大の驚異だ。生命圏はさまざまな形の命が複雑に縫い合わされたタペストリーのようなものである。10億年以上にわたって多様な形の生命を育んできた環境をわれわれが急激に変え、破壊している事に対する緊急の警告を伝えたい 」 ( Edward Wilson, " Biodiversity",  1988、訳は「生物多様性と何か」より引用 )

 今日から風薫る10月となりました。実は今月愛知県で大変重要な国際会議が行われます。通称COP10生物多様性条約第10回締約国会議です。スケジュールをもう少し詳細に書きますと、下記の予定で開催されます。

10/11 - 10/15  MOP5 (カルタヘナ議定書第5回締約国会議)
10/18 - 10/29  CBD・COP10 (生物多様性条約第10回締約国会議)
10/27 - 10/29  閣僚級会合

 MOP5のカルタヘナ議定書とは遺伝子組換え生物を国境を越えて移動させる場合の手続きなどを定めた国際ルールです。
 また、CBD・COP10の期間の最後の3日間は「閣僚級会合」となり、各国政府の大臣クラス首相大統領などが会議に加わる期間で、この会議のハイライトとなります。
 そしてこの3日間である程度まとまった声明が出されれば、CBD加盟国に対して生物多様性を守るための対策を行う事を義務付けられます。当然ながら各国政府・官庁(日本であれば環境庁など)が早速にも動き出す事になりますが同時に、多くの大企業、WWFなどの大組織、更にはNGOなどが一勢に動き出すものと予想されています。

 企業というのは意外かもしれませんが、生物多様性の消失が

人類史上最大の危機

である事をやっと多くの国が認識してきているとともに、単なる

環境保護を超えた巨額の利害

が絡んでいるからなのです。これに関しては次回記事で紹介させていただきます。

Wwfjapan910_5     さて、皆さんもレッド・リストという言葉をお聞きになったことがあると思います。ICNU(国際自然保護連合)の定めた、絶滅する恐れのある世界の野生生物種のリストで、たとえば2010年度においては8811種の動物が「絶滅の恐れが高い種」と掲載されています。

 何故種の絶滅がそれほど大変なことなのか?情緒的に考えれば、

・ニホンのトキが絶滅しても我々の日常には何の関係も無かったではないかとか、
クロマグロが絶滅しても他のマグロや養殖マグロがあればこれからもあの驚くような安さの回転寿司のマグロを食べ続けられるだろうとか、
・フカヒレを我慢さえすればサメなんか絶滅してくれてもいいんじゃないかとか、

漠然と考えてしまいがちだと思います。

 しかし、近年のセイヨウミツバチの激減が農業に与えた大打撃を思い出してください。あれは世界の農業が受粉をセイヨウミツバチ一種に頼ってきた結果であって、生物多様性の重要性を図らずも提示する事例となりました。ちなみにEUが中心となって行った調査によるとハチなどの昆虫が受粉による農作物の生産を通じて人類にもたらす利益は

年間1530億ユーロ(約19兆円

と推定され、この額は世界の農業生産額の9.5%に相当します。

 この例を持ち出すまでも無く、生物多様性の急激な減少は人類の存亡に関わる問題なのです。第一線の研究者であるスタンフォード大学ポール・エーリッヒ博士はこういう喩えをしています。

「(前略) 種の絶滅は、空を飛んでいる飛行機から次々とリベット(鋲)を抜いていくようなものだ。飛行機から一つのリベットが抜け落ちても、即座に飛行に影響が出ることはないように、ある種が絶滅し、或いは個体数が急減しても、近縁の種が同様の機能を果たして生体系を支える。ところが、抜け落ちるリベットの数が段々多くなってくると、いずれ限界に達し、やがて飛行機は空中でバラバラになって墜落してしまう。次々と絶滅によって種を失っている現在の地球の生態系は、リベットを落としながら飛んでいる飛行機のようなものなのだ。」

 当然ながら人類という搭乗客もその時は一緒に墜落する、というわけです。
 というわけで、前置きが長くなってしまいましたが、次回はWWFジャパンのHP・会報とこの書をもとに、もう少し掘り下げて生物多様性COP10の意義について考えてみたいと思います。

 今回の文章の多くはWWFジャパンのHPや会報、そして冒頭に掲げた「生物多様性とは何か」という共同通信社科学部記者井田徹治氏の著書に拠っています。生物多様性について興味が湧けば、あるいは疑問があれば真っ先に手に取るべき書物としてWWFジャパンも推薦しています。興味の湧いた方は是非どうぞ。