ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Keith Jarrett Trio @ 神戸国際会館

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(公式パンフレット表紙)
 初日本公演から25年、今回で10回目を数える、キース・ジャレットのトリオでの公演が昨日神戸国際会館であり、久々に生キースを観てきました。
 途中で何かトラブルがあり、「これが最後のコンサートだよ、僕たちはもう燃え尽きたんだ」なんて途中でぼやきだすし、やや荒れ模様ではありましたが、それでもキース/ゲイリー/ジャックのトリオは別格だ、というところを見せてくれました。

Keith Jarrett/Gary Peacock/Jack Dejonette Japan Tour 2010

Date: Sept.26th, 2010, 19:00-21:15
Place: Kobe International House, Kobe, Japan

Keith Jarrett (p)
Gary Peacock (double bass)
Jack Dejonette (ds)

(このトリオは最初スタンダーズ・トリオ、ついでキース・ジャレット・トリオと名乗り、今の正式名称は3人が同格だということで「Keith Jarrett/Gary Peacock/Jack Dejonette」となっています。ただ、タイトルにするには長すぎるので便宜上Keith Jarrett Trioと書かせていただきました)

Setlist(公式発表分)

Setlist100926keith_2
1st set
1:  Everything Happens To Me ( On Green Dorphin Street? )
2:  I Remember Clifford
3:  One For Majid (Keith Original)
4:  The Way You Look Tonight

2nd set 
5:  Round About Midnight
6:  Joy Spring
7:   Answer Me, My Love
8:  Bye Bye Blackbird

EC
1:  I'll Close My Eyes (?)
2:  My Ship

 setlistは終演後公式掲示されたものを掲載しました。が、、、まあこのトリオの演奏は原曲のメロディラインを殆ど留めていない事が常なので、正直言ってこの通りかどうか分かりません。というか、そりゃ違うだろうと言う曲が何曲かあったので、久々に某巨大掲示板にふってみたら予想通り異論続出。で、( )内はいただいた意見を書かせていただきました。カキコしてくれた一緒にあの会場にいた誰かさん、ありがとう。

 さて、開演前、着席した席は前から10列目でピアノの真後ろ方向となかなか良い席。会場も立ち見が出るほどの満席。
 ステージはで統一され、向かって左から右へ、ピアノ、ダブルベースとベースアンプ、ドラムセットというミニマルな構成。ピアノはSteinway and sonsでおそらくアメリカン・スタインウェイと思われます。

 定刻になって3人が登場、キース・ジャレット(65歳)はトレードマークの小さいサングラスをかけ、赤のシャツに黒のパンツ、ゲイリー・ピーコック(75歳)はグレイの上下、ジャック・デジョネット(68歳)は青のシャツでした。
 私が昔確か大阪でこのトリオをみたのは、年は忘れましたが全盛期で油の乗り切った頃。その頃と比べるとキースには年齢とそれ以上に慢性疲労症候群(CFS)の酷いまでの刻印が標されていました。正直言って3人の中で一番老けました。CFSの何と酷い事よ(泣。

 さて、閑話休題、ひとしきりの拍手の後3人が所定の位置につき、キースが一音を出すまでのいつもの静寂。。。と客席上後方より男性ネイティブの英語で

「I love you, Keith!」

の大きな声が(-_-;)。キースのコンサートで一番大事な瞬間をわかっとるのか、と思いつつキースの反応を伺うと、彼は苦笑いしながらぼそっと「ここは結婚式会場かい?」とさらりとかわして会場が和やかな雰囲気になりました。良かった良かったと思ったらそのおっさん、またまた

「I Do!」

と返すやないですか、ほんま(--〆)。続いて「We do!.」という女性陣の応援もありましたが、あれはやはりかなりコンセントレーションを奪われたんじゃないですかねえ。

 そしてキースの和音でいよいよ演奏が始まりました。が、

音が悪い

無響室でスピーカーの直接音を聴かされているような感じです。プロモーターの鯉沼さんは残響が少なく,舞台の裾で聞くライブの音に限りなく近い「Whsper Not」の音が好きだとパンフレットに書いておられましたが、あのアルバムの音の傾向を極端にした感じです。
 だからジャックのドラムの音だけはガンガンに良い感じで聴こえるんですが、肝腎のキースのピアノの音がしょぼいし、ゲイリーのベースに至ってはこれだけの良席でありながら、ソロの時以外は殆ど聴こえない。大震災で瓦解し、再建した神戸国際会館のこのホールは決して音響は悪いホールではありません。明らかに事前のセッティングをミスっているとしか思えませんでした。

 そんな状況が2曲くらい続いてフラストレーションは溜まるばかり。ジャズの常で各人のソロが終わると盛大な拍手が起こるんですが、正直拍手する気になるのはジャックの時だけ(苦笑。

 ただ、そんな中でもキースは例によって唸るし、鍵盤の上にかがみこむし、立ち上がるし、足でリズムを取るしでいつものパフォーマンス、そして右手の不協和音の一切無い旧来のモダンジャズでも現代音楽でも無い流麗な上昇下降を繰り返すメロディラインは健在。見かけの老い方よりはイマジネーション、テクニックは健在だなとは思いました。一方ゲイリーは何やかや言ってももう75歳。さすがにもうダメなのかなあ、と思いました。

 考えてみればキースは右手勝負で左手やペダリングは元々あまり使う人ではないし、ゲイリーもソロは高音領域での勝負ですから、オーディオファイルにとって大事な低音を二人揃ってあまり出さない(苦笑。その辺のCDと異なる腰高感も不満の原因だったかもしれません。

 このままだと1st setでさっさと帰るか、とか思い始めた3曲目あたり、やっと演奏自体にエンジンがかかってきたのか、それとも裏で音響を調整したのか、徐々に昔の記憶やCDで聴く音に近くなってきました。そして4曲目のかなり長い演奏は、キースのノリノリでかなり長い和音連打が演奏をグイグイ引っ張っていくし、ゲイリーのソロの音にも力が入っていきます。いつも通りの驚異的な3人揃っての音の終わり方も見事に1st setの帳尻を合わせて一旦休憩。

 で、期待の2nd set。うん、やはり音がよくなってる!多分音響を修正して来てますね、これは。他曲と違ってゲイリーのベースから始まったんですが、音の響き方が開始当初と全然違う。キースのピアノの音の響きも心なしかブラッシュアップされてる。ジャックのドラムセットだけはテッパンでOK(笑。

 こうしてや~っと落ち着いて聴けるようになったのも束の間。セカンドの2曲目が終わった後、キースが突然ゲイリーの元に寄っていって何やら話しこんでいます。挙句はゲイリーが鯉沼さんをステージに呼び出して何やら相談してます。不穏な空気。音響は良くなってると思うのですが彼には気に入らないんでしょうか?明らかに不機嫌で鯉沼さんがはけた後もなかなか演奏に入らず冒頭書いたように客席に向かって

これが最後のコンサートだよ、僕たちはもう燃え尽き(burn out)たんだ

なんて途中でぼやきだすし。で、ここでさっきのおっさんがまた大声でキースを励まします。キースは今度はわりと落ち着いて返します。このネイティブのおっさんおってくれて良かったのやら悪かったのやら、差し引きするとおってくれて良かったのかも。彼の「Burn!」の一言はキースに確かに火をつけたかも知れませんね。それともウザったかったのか、キースは次のバラード曲を弾き初めて2,3音でやめて、こちらを向いてニヤリ。

「キーを間違えた(wrong Key)」

この冗談には会場爆笑。これで吹っ切れたのか、それからの2曲はキースがどう思おうと抜群に良かったです。特にホンチャン終曲の「Bye Bye Blackbird」はやっとキースに神が降りてきました!BBBはいろんなCDで聴いていますが、それを凌駕する演奏だったと思います。もしこれのライブ録音が出たら絶対この曲一曲だけを聴くためだけにでも買いますね。

  万雷の拍手の中3人がステージ前列に並び笑顔で屈伸体操のような礼。そしてキースはいつもの合掌。カーテンコールばりにもう一回出てきてもう一度屈伸体操して(笑、退場。そして再度登場してアンコール。

 アンコールの二曲もキースの右手に神が降りてました。幾ら凄い演奏と言っても、昔初めてスタンダーズ・トリオの演奏を聴かされた時のような新鮮な驚きはさすがにもう望みようも無いだろうと思っていました。が、ありました。

 ラストの「My Ship」の最後、演奏がほぼ終わりかけた後の静寂の中での単音数音の美しさ。。。

キース、示申~

と目頭が熱くなりました。

 ということで終わり良ければすべて良し、やっぱりキースはキース、もしこれがラストコンサートで無ければまた聴きにいきます!たとえ単音数音のためにでも。