ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Scratch My Back / Peter Gabriel

Scratch My Back
Scratch My Back
 漆黒の背景に浮かび上がる赤血球と思われる美しい赤の意匠が美しいジャケット。ライナーのセンターフォールドには、なんと私のA.T.フィールドを軽々と中和・侵入して描き出した頭蓋内動脈のMRAの大胆なデザイン。こんな意匠のアルバム、一体誰が出す?なるほど、ピーター・ゲイブリエル大先生(ゲイブリエルと書くところがプログレ・ブログの生命線です(笑)、以下PG)ですか、と納得。
 という訳で傳先生風に書き出してみました。と言うのも、先日紹介したサラ・マクラクラン新譜とともに傳先生が紹介しておられたのがこの新譜「Scratch My Back(お互い様てな意味)」だったんですね。こればっかしはこちとらが先に買ってましたが、傳先生がこんな難解なアルバムを紹介した事には驚くとともに脱帽しました。そしてこんなアルバム、とてもじゃないがレビューできんわと放ったらかしにしていた自らを恥じ入る事と相成りました。

 とは言え、じゃあやりましょかと簡単にレビューできる作品ではありません。そこを何とかプログレ・ブログ(一応)の意地で傳先生とは異なる観点からなんとか挑戦してみませう。
 一言で言えばカバー集なんですが、PGがそんな生易しいアルバムを発表するはずがない。どんな感じかというと、例えば一曲目、David Bowieの「Heroes」なんか、ボウイとイーノとフィリップ・グラスで作り上げたミニマル・ミュージック交響曲Heroes Symphony 」をもう少し聴きやすいオーケストレーションに編曲しなおした上で、PGが詞を朗読している印象。
 と申し上げても余程のマニアしかご存じないでしょうね、こんな曲。リンク先を聴いてなんじゃこれは、と怒り出さないように(笑。

Heroes Symphony

Disc 1:
1. Heroes (David Bowie)
2. The Boy In The Bubble (Paul Simon)
3. Mirrorball (Elbow)
4. Flume (Bon Iver)
5. Listening Wind (Talking Heads)
6. The Power Of The Heart (Lou Reed)
7. My Body Is A Cage (Arcade Fire)
8. The Book Of Love (The Magnetic Fields)
9. I Think It's Going To Rain Today (Randy Newman)
10. Apres Moi (Regina Spektor)
11. Philadelphia (Neil Young)
12. Street Spirit (Fade Out) (Radiohead)

Disc 2:
1. The Book Of Love (Remix)
2. My Body Is A Cage (Oxford London Temple Version)
3. Waterloo Sunset (The Kinks) (Oxford London Temple Version)
4. Heroes (Wildebeest Mix)

『・アルバム『UP』以来7年ぶり、通算8枚目のスタジオ録音アルバム。
レディオヘッドニール・ヤングアーケイド・ファイアルー・リードトーキング・ヘッズボン・イヴェールらの楽曲を、ピーター・ガブリエル流に解釈したカヴァーの数々を収録。
・ガブリエルが、他の優れたアーティストたちと互いの楽曲を交換してカヴァーし合う、特別企画シリーズの第一弾。
・カルト的な人気の“知る人ぞ知る”ナンバーから、誰もが頷く定番の名曲に至るまで、驚くほど多岐に亘る収録曲の数々を巧みに編み上げてレコーディングするに当たり、今回ガブリエルが協力を仰いだのは、元ドゥルッティ・コラムのジョン・メトカーフや、作曲家/編曲家であり、プロデューサーとして熟練の技を持つボブ・エズリン(代表作は、ピンク・フロイドの『ザ・ウォール』、ルー・リードの『ベルリン』他)、そしてエンジニア兼ミキサー兼プロデューサーである(スザンヌ・ヴェガシェリル・クロウトム・ウェイツらを手掛けた)チャド・ブレイクである。(AMAZON日本盤解説より)』

 と、いきなりネガティブ・キャンペーンを張っておいてなんですが、じゃあ駄作なのかといえば、少なくともプログレ・ファン現代音楽愛好者、そして当然ながら長年彼の新譜を待ちわびていたPGファンには腰を据えて聴く価値のある、PGにとっては会心作なのだと思います。

 まず、意表をついてプログレが必ずしもドラムやエレキギターエレキベースといった機器を必要とはしないという、ある意味コロンブスの卵的な事実をこのアルバムは提示しています。
 先ほど述べたミニマル音楽の雄フィリップ・グラスの作りだす世界のごときシンプルかつモノトナスなオーケストレーションにより、有名無名を問わず選曲された曲を一旦遠慮無く解体する。そしてその音をバックにPG独特のつぶやくような、そして時には絞り出すようなハスキーボイスをある意味楽器的に演出させる事によって独特の世界を作り出す。
 それが今回、PGがメトカーフやエズリン、チャド等の名うてのスタッフに託したコンセプトだと思います。だから原曲の好き嫌いは関係無し(笑。どんな曲でもPGの曲になっています。
 そのあたり、以前紹介したブライアン・フェリーの「ディラネスク」とは正反対のアプローチで、これは好き嫌いの問題でしかありませんが、私はディランっぽくうたうフェリーより、この歌い方しかやらない!というPGの姿勢の方が好きですね。じゃあiPodに入れて車の中で流すならどっちにする?と言われると。。。ちょっと困ってしまいますが(^_^;)。

 驚いたのはレパートリーと言うか、交友の広さ。題名がお互い様という意味と冒頭で書きましたが、曲を貰う代わりに提供する、というコンセプトで作られたアルバムなので、当然ながら相手もPGを尊敬し曲を貰いたがっている、ということになります。
 ボウイ
トーキング・ヘッズルー・リードといったあたりはまあ当然といえば当然の選択なんですが、ポール・サイモンランディ・ニューマンあたりは驚きですね。ランディの「 I Think It's Going To Rain Today」は以前紹介した「Higher Ground」でノラ・ジョーンズがしっとりとカバーした曲がとても素敵で忘れられないんですが、その雰囲気をある程度壊さずに解体してるあたりは

Okay

ですね。できれば「Don't Give Up」でケイト・ブッシュとデュエットしたみたいにノラとデュエットしてくれれば嬉しかったですけど。
 また、ボーナスCDでキンクスの名曲「Waterloo Sunset」をカバーしてくれてるのも嬉しいですね。以前紹介したことのあるThe Submarinesのバージョンをとても気に入ってましたが、これはこれでありでしょう。

 何はともあれ、ジェネシスでの独特のパフォーマンスで世界の耳目を集め、その後のソロ活動でワールドミュージックを吸収し続けるとともに第三世界の音楽をサポートし、そして何より独自の音楽観を決して崩さなかったプログレを代表する硬骨漢の作ったアルバムには違いないです。何度も申し上げますが、聴く人を選ぶアルバムで万人にはお勧めできませんが、拙ブログをずっと読んでいただいているあなたなら、「あり」、でしょう。まあ、ジャケットの美しさだけでも買って損は無い(笑。逆に言えば、DL購入は「なし」ですかね。