ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ABBOT KINNEY / Love Psychedelico

ABBOT KINNEY
 Love Psychedelico久々の新譜「ABBOT KINNEY」が発表されました。前作の「Golden Grapefruit」が2007年でしたから3年振りとなりますね。

1. Abbot Kinney
2. Beautiful days
3. Here I am
4. Secret crush
5. Shadow behind
6. I’m done
7. Hit the road
8. Bring down the Orion
9. Happy birthday
10. This way
11. Dr.Humpty Brownstone
12. Have you ever seen the rain?

 事前にAbbot Kinneyという題名を調べてみたのですが、カルフォルニアVeniceという街に「Abbot Kinney Blvd」という名前の通りがあり、ABBOT KINNEY FESTIVALというフェスも催されている事が分かりました。念のため、カルフォルニア在住のjazzaudiofanさんにお訊きしてみましたところ、下記のような詳細なご説明をいただきました。ありがとうございます。

『「ベニスビーチから歩いて5分ほどの所にアボット キニー・ブルーバードがあります。端から端まで歩いても15分程度のストリートに、素敵なカフェやレストランがいっぱい。ローカルの人たちが多いので、のんびりとお食事が楽しめます。」

そしてAbbot Kinneyは人の名前ですね。ベニスビーチの開拓者です。1900年代初頭、サンタモニカ近くの海岸にVenice of Americaという保養地/娯楽施設を作り、Venice Pierという桟橋を中心ににぎわいを見せたそうです。それがVeniceという町になり、後にロサンゼルスに編入。現在もベニスビーチは広い砂浜の中を走る自転車道路や浜沿いの遊歩道が人気で、週末ともなれば大道芸人も出てきて大変な賑わいです。もっとも僕は1回しか行ったことがありません(笑)。

参考サイト
http://www.venicebeach.com/
http://en.wikipedia.org/wiki/Abbot_Kinney
http://www.la-access.com/restaurant-abbot%20kinney.html

 さて、新譜が届いたので開けてみますと、帯の裏側に予想通りのVeniceの町の地図がありました。
 表ジャケットはこの通りの写真に、おそらくKUMIの描いたと思われるイラストがあしらわれています。前作「Golden Grapefruit(s)」の看板もあったリしてなかなか楽しいですし、初回盤にはこのイラストのシールがサービスとしてついています。楽しいと言えば、インナーにはこの町で撮った二人の楽しそうな写真が満載されています。
 そしてカルフォルニアらしいからっと明るいタイトル曲にはこんな歌詞があります。

I feel fine walkin' on Abbot Kinney Street
Art-Street where I'd like to be

 カルフォルニア育ちのKUMIの事ですから子供の頃からこの町を知っていて、この通りが大好きだったのかもしれませんね。BlvdをStrにしているのは歌いやすかったからなのか勘違いなのかは分かりませんが、まあご愛嬌という事で(笑。

 さて、どんな内容かと訊かれれば、もう

デリコはデリコ

としか答えようがありません(笑。前作の一曲目が比較的ヘビーな「Freedom」であった事から考えると、今回は上述した通り、ややからっと明るい西海岸的なのかもしれませんが、とにもかくにも偉大なるマンネリと言って良いデリコサウンドそのものです。それが好きな人にはたまらないし、嫌いな人は別に聴かなくてもいいよ、みたいな。

 私がどうしてデリコが好きかというと一重にKUMIのボーカルに尽きます。彼女のボーカルはJ-Pop/Rockにおいて桑田佳祐以来の劇的な革新であったのではないかと思っているくらいです。
 このブログで時々お話してきたように70年代までの日本のミュージシャンは日本語のボーカルとロックバンドの楽器構成とそのリズムにどう折り合いをつけるかで随分悩み、苦労していました。そこに忽然と現れた天才がサザンオールスターズ桑田佳祐でした。日本語のイントネーションを英語的に処理して英語とちゃんぽんするという、コロンブスの卵的革新をやってのけました。

 この手法は数多くのフォロワーを産み、爆風スランプサンプラザ中野のように頑なに日本語歌詞にこだわる一部の例外を除いて、ロックからポップ、ニューミュージック、更には歌謡曲にまで英語と日本語のチャンポンは行き渡ることになります。その質が高ければ問題ありませんが、多くは日本語の歌詞に幼稚な(時には意味不明の)英語のフレーズをくっつけた質の低いもので、聴くに値するアーチストは極めて少なかったように思います。
 おまけに、これが私の最も嫌うところなんですが、日本語の発音が押しなべておかしくなりました。日本語を英語風なイントネーションで歌うのがカッコいい、みたいな誤ったというかおバカな風潮がその後のメインストリームとなるに及んでは開いた口が塞がりませんでした。

 桑田佳祐は確かに偉大なオリジネーターだったと思いますし、初期は大好きでしたがこのような流れの中で段々と嫌いになってしまいました。このブログでSASKUWATA BANDが出てこないのはまあそんな理由です。忌野清志郎もそうじゃないかと言われそうですが、彼の曲を良く聴いていただけるとわかりますがあれは彼の個性であって、実はしっかりと日本語を発音しています。

 そんなこんなでJ-Pop/Rockに嫌気がさしていたころに突然耳に入ってきたのがデリコの女性ボーカルでした。このKUMIという女性は苦も無く完璧な英語と日本語をあやつり、しかもそれが彼女の発音体系の中で別の言語と思えないくらい自然に融合している。これは長い間J-Pop/Rockにつきあってきたものとして大変なショックでした。当然帰国子女だろうと思いましたし、実際そうでしたが、帰国子女がみんな彼女のように歌えるわけではないでしょう。これは彼女の貴重な才能だと思いましたし、ついに英語、日本語を意識する事無く歌える「ニュータイプ」が出てきたかと感慨深いものがありました。
 例えば代表作の一つ「Last Smile」にこんな歌詞があります。

運命線からother wayそれから憂いてる風ともget away
いつでも放たれたくとも 君は目の前でlast smile
ただ見守ってるよな君のstyle
Oh戯れな遠目のloser

この日本語の発音と英語の発音のシームレスな連鎖はいつ聴いても快感です。家内は「洟垂れの歌」と言ってますが(^_^;)。

 随分話がそれてしまいましたが、このアルバムは懐かしのCCR(Creedence Clearwater Revival)の名作「雨を見たかい( Have you ever seen the rain?)」のカバーで幕を閉じます。前作でビートルズの「HELP!」をカバーしていたのはレノン・ファンのNAOKIのチョイスだと思いますが、今回は典型的なアメリカンバンドだったCCRの曲ですから、おそらくKUMIの希望でしょうね。

 偶然ながら先程から名前を挙げていた桑田佳祐がこの曲をKUWATA BANDでカバーしています。その桑田がこれもCCRの大ファンだった大友康平

『おまえのは完コピになってない。ジョン・フォガティは「ハヴユーシ~ンレイン」ではなくて「ハヴユーシ~ングゥアレイン」と発音してるんだぜ』

とやりこめられたと言うエピソードをどこかで読んだ記憶があります。まあジョンがなまってるだけなんですが(笑、時代は下ってKUMIは完全な英語を駆使してデリコ節で楽しそうに歌っております。この歌の「晴れた日に降る雨」がベトナム戦争におけるアメリカ軍のナパーム弾による絨毯爆撃の事だという通説を1976年生まれのKUMIは知っているのかな?

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