久しぶりの記事がこのライブレポートになって嬉しく思います。というのも30年前から一度は生で聴いてみたいボーカリストとピアニストの共演という、個人的には「奇跡的」なライブだったからです。
そのボーカリストとはター坊こと大貫妙子、ピアニストとは教授こと坂本龍一です。
Place: イオン化粧品シアターBRAVA、大阪
Time: Dec. 20th., 2009 16:00-18:00
真っ暗な舞台にグランドピアノが一台。教授が登場しても微かなスポットライトが教授の上半身を淡く浮かび上がらせるだけという幽玄な雰囲気でライブは始まりました。最初の3曲は最新作「アウト・オブ・ノイズ」からの選曲でした。以前NHKの「SONGS」でも紹介されていてご覧になった方もおられるかとは思いますが、ミニマリズムとアンビエントが融合したような不思議な音空間でした。
その3曲が終わって教授の朴訥なMCが始まってやっと会場が現実に引き戻されました。この3曲は前回の日本ツアーではやらなかったが終わったばかりのヨーロッパツアーではやったので不公平かなと思って選んだと語った後、
「普段はピアノ2台を持ち歩いているんですが今日は一台、その分今日は大貫妙子さんを連れてきました」
と会場の笑いを誘います。その後はSEを一切使わずのソロでしたが、一曲エンニオ・モリコーネの作品を弾いたのには驚きました。ベルトルッチの映画「1900年」からの選曲でしたが、
「ラスト・エンペラーの音楽も俺にやらせろ、とモリコーネさんはベルトルッチに電話をかけまくってたそうです、あれほどの巨匠になられてもそういう事をされるのかと驚きました」
と言う面白い裏話を披露されました。一応説明しときますと、ラストエンペラーは教授がアカデミー音楽賞に輝いた作品です。
さて、いよいよ大貫妙子さんの登場。シックな黒のドレスでしたが、彼女独特の笑顔のオーラがさっと舞台の雰囲気を変えてしまいました。数多い彼女との共作の中で最高の作品、と教授が紹介した一曲目は
「色彩都市」
坂本龍一、浜口茂外也、故大村憲司が組んで最高のアレンジができたと教授が語るその作品をピアノ伴奏でター坊が歌い始めた時、私の心の中で何かが溶け出して、涙となってこぼれだしました。。。大貫妙子にしか出せないあの美声と複雑なニュアンスを持った歌唱、それを静かに包みこむ坂本龍一のピアノ。この一曲を聴いただけで無理をしてでもここに来て良かったと思いました。続いては最近の曲で、
「懐かしい未来」
大貫妙子さんが最近NHK-FMにパーソナリティとして出演されている番組のサブタイトルにもなっています。ちなみに元旦に生放送があるそうですのでター坊のファンは要チェック!ちなみに元々は彼女がNHKの「地球エコ2008 SAVE THE FUTURE」のテーマソングのための歌詞をかいた曲で、alanという方が歌っているそうです。
教授「歌詞は素晴らしいけど曲は大した事ないね、誰?」
ター坊「え~っと、確か菊池さんだったと思いますよ」
と言う危ない会話もこの二人が喋るとほんわかしてます(笑。ちなみに作曲は菊池一仁さん。まあ誰とはいいませんが私の大嫌い系の歌手たちに数多くの楽曲を提供している人ですね(苦笑。
それにしてもその後の二人の会話の噛み合わない事(笑。
「二人ともB型だからしょうがない」
う~ん、分かるなあ。私もB型ですからそれも嬉しかったですね。
そして次の曲が今回大貫妙子さんをピアノの替わりに連れてきた本来の目的である一曲
「TANGO」
彼女からの申し出で、坂本龍一のソロ作品に歌詞をつけて歌うアルバムのプロジェクトが始まっており、来年には発表されるそうです。この曲は「SMOOCHY」に入っていた教授の作品。
本当はもう一曲あったはずがこれで彼女に退場させてしまった教授、平身低頭でしたが、アンコールが2曲になりそれが素晴らしすぎたのでこちらとしては大満足でした。
後半もピアノ・ソロが数曲。ご存知の方も多いと思いますが、彼のソロはダイナミズムよりも静謐な美を探求する所謂耽美派で、複雑な和音構成と高音部のメロディラインの繊細さが命。それを邪魔しないように今回はホール内の空調を停めていました。彼自身「余り派手な曲の手持ちが無いもんで」と自虐的な笑いを取っていましたが、最後には思いっきりペダリングを効かせてびしっと決めてくれました。
さて、お待ちかねのアンコール。やり忘れた一曲を含め2曲となりましたが、なんと曲目は
「突然のおくりもの」
「風の道」
彼女はこう語りました。
「古い曲でも歌い続けていれば決してその曲は古びていかない」
と。オーディオファイルの必須アイテムの一つ「Pure Acoustic」でも披露されている曲ですが、今回の坂本龍一のピアノ伴奏はそれをはるかに超えて素晴らしかった。
生きてて良かったです。