ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

山田辰夫氏を悼む

Yamadaandtakita
 少し古い訃報になってしまいますが、俳優の山田辰夫氏が胃癌のため7月26日に逝去されました。バイプレーヤーとしてとても好きな俳優さんでした。滝田洋二郎監督の「おくりびと」でも良い演技をされておられましたが、私が一番強く印象に残っているのは同監督の「壬生義士伝」の佐助役でした。その出演の経緯をお二人が対談で語っておられるのを知り、読んでみましたところ、あらためて泣けてきました。追悼の意味を込めて紹介してみたいと思います。

 山田氏は「狂い咲きサンダーロード」でのデビューが鮮烈過ぎて、あれを演技と思ってもらえず、恐がられて全然仕事が来なくなってしまったそうです。劇団のマネジャーが「山田は俳優です」と言っても、信じてもらえない。それで長い間不遇を囲っておられたのですが、高校の同級生である滝田洋二郎氏が「壬生義士伝」を撮る事を知りました。それまでも巨匠と呼ばれる様になった滝田氏に頼めばという声は周囲にあったそうですが、どういう意識で彼が映画に取り組んでいるか分かっていたので、同級生だからって安易に「何か役ないか」という電話はしたくないと拒んでいたそうです。

 しかしその時は、壬生義士伝を読んでいて本当にボロボロ泣いて、本当にやりたい役があった。だから初めて滝田氏に電話して出演させてくれるよう頼んだそうです。早速松竹からどの役をやりたいか問い合わせがあり、「佐助をやりたい」と伝えたところ、イメージが合わないと戸惑う声がしきりでした。しかし、滝田氏の「やりたい奴がやれば一番いい。おれ、決めた」の一声で決まったそうです。

 あえて佐助については解説しません。是非原作を読み、映画を観ていただきたいと思います。それだけの思いが詰まった演技だったのか、と山田氏の佐助の演技を思い返すと、それだけでまた目頭が熱くなります。

 謹んでご冥福をお祈りします。

 「大切な友人でもあり、かけがえのない俳優を亡くし、本当に悔しい。もっともっと山田辰夫を撮りたかった。一緒に映画を撮れたことが、自分の誇りです。ありがとう」(滝田洋二郎