ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

佐野えり子 plays Ravel @兵庫県立芸術文化センター

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 以前アルゲリッチの「夜のガスパール」をレビューした事がありますが、その頃から是非一度生演奏を聴きたいと思っていました。そんな折り、兵庫県立芸術文化センターからのDMで「ラヴェルのピアノ全曲演奏会」というパンフを見つけてこれはいい機会だとチケットを購入しました。二夜に渡っているのですが、残念ながら第1夜は仕事の都合で行けず、ガスパールの入っている第2夜に出かけてきました。

佐野えり子: ラヴェルピアノ全曲演奏会・第2夜

Date: July 9th, 2009
Place: 兵庫芸術文化センター 神戸女学院小ホール

佐野えり子 piano

Program: Maurice Ravel(1875-1937)

第一部
1: 古風なメヌエット
2: ハイドンの名によるメヌエット
3: ....風に
  1: ボロディン風に
  2: シャブリエ風に
4: クープランの墓
 I: Prelude
  II: Fugue
  III: Forlane
  IV: Rigaoudon
  V: Menuet
  VI: Toccata

Intermission

第二部:
5: グロテスクなセレナード
6: プレリュード
7: 夜のガスパール
 I: Ondine
  II: Gibet
  III: Scarbo

Encore
1: クープラン: クラブサン組曲より「子守歌 またはゆりかごの中のいとし子」
2: クープラン: おしゃべり

 兵庫芸文の小ホールはグランドピアノの演奏に丁度よいエアボリュームと響きを持っていて好きな会場です。大ホールは広すぎて時としてエアボリュームに負けてしまう演奏会もあったりするのですが、小ホールは先ずハズレがありません。というわけで佐野えり子さんという方の事は寡聞にして知らなかったのですが、心配はしていませんでした。結論を言うと予想以上に良かったです。会場全体が縁故関係の雰囲気に溢れ過ぎていた事を除けば(笑。

 佐野えり子さんは桐朋学園のご出身で世界で活躍されておられるそうです。聡明な感じの凛とした女性で、やっぱり腕の筋肉と手はプロの凄みを感じました。プロですから当たり前と言えば当たり前なんでしょうが、譜面も譜面係も無しでラヴェルピアノ曲を全て暗譜で弾き通されたのには素直に感心してしまいました。頭の中に譜面が詰まっているのか、もう無意識のプログラミングの中で手が覚えてしまっているのか、大脳生理学的な興味が湧きました(笑。

 さて演奏ですが、一番運指が良く見える席で見せていただきましたが、ほぼ完璧、ミスタッチは多く見積もっても2回くらいしかなかったと思います。ラヴェル独特の高速で上昇下降するきらめくようなパッセージ、右手と左手の頻繁な交差等の技巧を苦も無くこなされていました。

 やはり一番印象に残ったのは「クープランの墓」のトッカータと「夜のガスパール」のオンディーヌです。トッカータは佐野えり子さんがパンフレットにご自身の解説を載せておられますが、

組曲をしめくくる終曲で、連打音や交差する3度など、高い演奏技術を要求される。中間部はメロディーが浮かび上がり美しいニュアンスを帯びるが、途切れることなく輝く終結に向かう。この曲がオーケストラ用に編曲されなかったのは極めてピアニスティックな効果が高かったからであろう」

と述べておられます。夢見るような中間部(決して寝ていたわけではありませんから(^_^;))から壮大な同音連打でフィニッシュに至る過程はまさに「高い演奏技術」を堪能できました。終了の瞬間、会場から拍手の寸前に「ほぉ~!」というタメ息が洩れていたのが演奏の凄さを物語っていると思います。

 最終曲「夜のガスパール」の直前は余程緊張しておられたと見え、今まで一度も直さなかった椅子の位置を2回修正され、しばらく瞑想し、指を鍵盤の上に一度持っていきながら、一旦下げて深呼吸の後もう一度鍵盤の上で静止されました。こういう音の出る前の緊迫感がライブの醍醐味でしょうね。

 「夜のガスパール」については冒頭に述べたように一度レビューしましたので繰り返しませんが、やはり「オンディーヌ」で終始繰り返される細かく繊細なアルペジオ、「絞首台」での通奏音となる鐘の音の正確さ、そして超絶技巧曲といわれる「スカルボ」でのはねまわるような不気味な超高速のパッセージの表現あたりが鍵となると思いますが、その全てを過不足なく表現されており、本当に良い演奏を聴かせていただきました。
 当然ながら目の方はもう食い入るように運指と体の動きを見続けていましたが、見事に統制の取れた演奏だったと思います。常人では到底保ちきれないような指と手首の角度を維持して打鍵し続ける様は精密機械というよりはむしろスカルボ(小悪魔)のようだ、と変な感心をしていました。

 さすがに感極まられたのか、「夜のガスパール」終了後のお辞儀では目頭を押さえておられたのが印象的でした。アンコールはラヴェルが尊敬して止まなかったクープランの小曲で、これも会場を和ませる良い演奏でした。

 翌日、アルゲリッチの「夜のガスパール」を再聴してみましたが、やっぱり彼女の演奏はメリハリが極端すぎて、フランスのエスプリからはちょっと遠い所にあるなと感じざるを得ませんでした。

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