ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Out Of Track / Giobanni Mirabassi

新世紀~Out of tracks~
 以前20万ヒット記念企画で取り上げさせていただいたジョバンニ・ミラバッシの新譜です。ミラバッシと言えば澤野工房、かと思いきや、ビデオアーツに移籍してのアルバムとなっています。大阪から東京へなんて吉本の芸人じゃあるまいし、なんて突っ込みたいところですが、一体どんな事情があったんでしょう。題名は澤野工房と言う旧来の軌道(track)から離れますという決意表明なのでしょうか?

1. ディア・オールド・ストックホルム 
2. ピエラヌンツィ 
3. 南へ帰ろう 
4. アローン・トゥギャザー 
5. ル・シャン・デ・パルチザン 
6. ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス 
7. ズーム 
8. インプレションズ 
9. スーヴェニア・スーヴェニア 
10. ヒアズ・トゥ・ユー・イントロ 
11. ヒアズ・トゥ・ユー 
12. コンヴィテ・パラ・ヴィーダ 

Giovanni Mirabassi (p)
Gianluca Renzi (b)
Leon Parker(ds)

 まずはミラバッシのピアノ、快調です。胸のすくような流麗なフレーズもヨーロッパ的陰影のあるメロディラインも健在です。jazzaudiofanさんが2008年ベスト・ジャズ・インスト・ディスク7位に挙げられていたのも頷けます。
 選曲も面白いです。ピアソラの「南へ帰ろう」のカバーは特に素晴らしい。また、「Avanti!」に収録されていた「パルチザンの歌」を再演したり、ジョーン・バエズの「Here's To You」を取り上げたりするところなど、やはり政治的メッセージ色の強い曲が彼は好きなのかなと思ったりもします。

 ちなみ「Here's To You」は「死刑台のメロディ」という映画の主題歌で、当時私は映画館で観たのですが、今では当たり前のエンドロールで主題歌が流れるという構成が斬新で、バエズの「Here's to you Nicola and Bart」と言うフレーズが脳裏に焼き着いてはなれませんでした。
 ちなみにこの映画の時代は日本洋画史の汚点と言われる「洋画邦題メロディ乱発時代」で、「小さな恋のメロディ」にあやかれとばかりトホホな題名をつけられた傑作が次々と話題にもならず埋もれていきました。この「死刑台のメロディ」も例外ではありません。
 原題は「Sacco and Vanzetti」と言う二人の死刑囚の名前で、1920年代に起こった有名な「サッコとヴァンゼッティ事件」を映画化したものです。赤狩りと人種偏見に根ざした思想的偏見に満ちた裁判により死刑になった二人のイタリア人を描いた傑作映画ですから、イタリア人のミラバッシが取り上げるのは当然かもしれませんね。イントロと本編に分けて2曲構成としているところなど、力の入れようが他曲とは全然違いますね。

 閑話休題、トリオについてですが、ベースもドラムもところどころではソロを取って存在を主張しますがあまりインタープレイ的にミラバッシに絡むところはなく、良く言えば出しゃばりすぎず、悪く言えばお飾り的な穏当な演奏に終始しています。あくまでもミラバッシのピアノを聴くアルバムと言えるでしょう。

 最後に音質ですが、う~ん、まあまあ(苦笑。やっぱり澤野工房の方に一日の長がある感じがします。