ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

オバマ大統領就任演説:アメリカ幼年期の終わり

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 1月20日に行われたアメリカ合衆国第44代大統領バラク・オバマ氏の大統領就任演説は世界からの注目を浴びましたが、アメリカ本国はもとより西側世界の概ねのメディアから好評をもって迎えられたようです。私もiKnow!というサイトでじっくりと拝聴しました。
 27歳の天才ライターとともに作り上げたその文章及び彼の演説は見事なものです。我々の世代の英語の授業によくケネディ大統領の演説が使われたように、来年度以降の英語の教科書・入試問題等に頻繁に登場する事は想像に難くありませんし、それだけの価値のあるものだと思います。
 日本でも直接選挙で日本の指導者を選択できるようになればこれだけの演説をする人が出て来るかもしれないという思いも抱きました。でも、某元総理大臣の、威勢が良いだけの博打打ちのような詭弁に引っかかってしまう国民性を考えるとそれもまたそれで危険なのかもしれませんね。

 彼の演説の上手いところは苦境を訴えつつ区切りでは希望を持たせるところ。演説の常套手段ではありますが、その盛り上げ方が実に上手いですね。

 例えば冒頭ではアメリカが未曾有の危機にあり、これを立て直すことは一朝一夕にはできない大変な難事業であることを率直に認めつつ、一呼吸置く所では力強い言葉で結んでいます。

「Today I say to you that the challenges we face are real. They are serious and they are many. They will not be met easily or in a short span of time. But know this, America, they will be met.」

 わが国では「米百俵」の故事を持ち出してひたすら国民に我慢を強いた挙句現在のような惨状を招いた宰相がいましたが、アメリカ人の乗せられると爆発的な力を発揮する国民性を考えると、彼の鼓舞により国民が自信を取り戻せばオバマニューディール政策はひょっとするとひょっとするかもしれません。そうでなければ世界が困るのですけどね(苦笑。

 個人的に興味深かったのはそのあと、聖書の言葉を引用しているところです。

「 in the words of Scripture, the time has come to set aside childish things. 」

と語っています。故アーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」を思いださせるフレーズですね。何をもって子供じみていたかを彼は巧妙に韜晦していますが、古き悪しき慣習、極論すればブッシュ政権の悪政を弾劾しているようにも感じます。

 そのあと彼は自国の歴史について延々と熱弁し、その上で経済、防衛についての自身の強い決意を述べます。そしてその区切りにはやはり、アメリカは立ち直れると強く語るのです。

「 know that America is a friend of each nation and every man, woman, and child who seeks a future of peace and dignity, and we are ready to lead once more.」

 「America」と何度も民衆に呼びかける背景には、合衆国が多民族国家であり、多宗教であり、巨大な貧富格差がある事が背景にあると思われます。それらを超えて、「America」として団結しようと言う彼の基本姿勢が見て取れるとも思いますし、逆にそれが大変困難なことだから強調しているとも考えられます。

 もちろんそのバックグラウンドとして彼が黒人初の大統領であることを全世界が意識していました。しかし意外にも彼はそれほど強調しませんでした。彼自身の家系が本国に於いて迫害を受けていた黒人家系では無い事もあるのでしょうけれども、白人への無用な刺激を避けたとも考えられます。そしてラスト近くにワンポイントで言及した所にライターの見事な腕前を感じます。

「This is the meaning of our liberty and our creed, why men and women and children of every race and every faith can join in celebration across this magnificent mall, and why a man whose father less than sixty years ago might not have been served at a local restaurant can now stand before you to take a most sacred oath.」

 たった60年足らず前父親は地元のレストランにさえ入れなかった、その子供が今最も神聖な宣誓をしている、この言葉だけで確かに十分でしょう。黒人の聴衆は、この一言にマーチン・ルーサー・キング牧師、マルコムX、マイルス・デイヴィスチャック・ベリーシドニー・ポワチエモータウンレコード等々に代表される黒人社会の先達の流した血や涙を思い涙したに相違ありません。

 一方彼の父親がムスリムであることも良く知られていますが、今や世界の火種であるムスリム世界に対しても積極的に語りかけています。対話には応じると語りつつも頑なな相手は容赦なく叩き潰す、と表明するあたりはやっぱり共和党民主党になってもアメリカはアメリカだなあと感じます。

「We will not apologize for our way of life, nor will we waver in its defense. And for those who seek to advance their aims by inducing terror and slaughtering innocents, we say to you now that our spirit is stronger and cannot be broken. You cannot outlast us, and we will defeat you.

To the Muslim world, we seek a new way forward, based on mutual interest and mutual respect. To those leaders around the globe who seek to sow conflict, or blame their society’s ills on the West — know that your people will judge you on what you can build, not what you destroy. To those who cling to power through corruption and deceit and the silencing of dissent, know that you are on the wrong side of history but that we will extend a hand if you are willing to unclench your fist.」

 このあたりの文章に関して見ていただきたい映像があります。高校時代の友人が教えてくれたものですが、フランス人記者がガザ地区の救急車に同乗して取材した動画です。フランス語での長いニュースですので、1分40秒、5分、8分、11分30秒あたりの画像だけでもご覧ください。ただし心臓の弱い方、恐怖画像の嫌いな方には敢えてお勧めしません。

 オバマ大統領、この映像を見るかぎり「テロを起こし、罪のない人間を殺害することで目的を遂げようとする者」はイスラエルなのではありませんか?その国に大量の武器を供給している国は一体どこなのですか?ハマスアルカイダなどを「紛争の種を蒔き、自国の問題を西側諸国の責任にしようとする」と断定する事は容易く、確かに彼等は「固く握った拳を開く意思」はないかもしれない。そしてイスラエルの軍備に比して圧倒的な弱者集団であっても核兵器は一発大逆転の手段として脅威であるかもしれない。だからといってガザがこのような状況に置かれることに大義はあるのですか?

 どうか、「相互利益と尊重を基盤に、進むべき新しい道を模索」してください。それこそが「アメリ幼年期の終わり」なのだと信じています。

God bless you, and God bless the United States of America, and God bless All People on The Earth.