(コンゴ民主共和国ギブ州での移動診療におけるマラリア検査)
さて、国境なき医師団(MSF)の緊急事態地図をもとに今回は個別の地域での緊急事態を見ていきましょう。アジアからアフリカ、南アメリカ、再びアジア、ロシアと世界を旅していきますが、残念ながらTVの旅番組のような気分では回れません。しかし、できることなら途中帰国せずに最後まで旅を続けてください。
1:アフガニスタン: 世界1位の難民数310万人
長年の戦火に疲弊した経済
平均寿命42.9歳
子どもの半数が慢性的栄養失調、
4人に1人が5歳まで生きられない
自爆テロ、誘拐など市民や外国人に対する攻撃は続く
2:中国・四川大地震: 2008年5月12日、M8.0の地震が発生、4620万人が被災
死者・行方不明者8万7千人、負傷者37万人
倒壊した学校の下敷きになり9千人以上の学童が犠牲に
3:ミャンマー: 医療からも人道援助からも疎外される人々
46年にわたる軍事政権の圧政と鎖国政策
国家予算に占める医療予算の割合は1.1%
子どもの10人に1人が5歳までに死亡、3人に1人が慢性的栄養失調
2008年5月、超大型サイクロン「ナルギス」により240万人以上が被災
4:スリランカ: 内戦により、45万人以上が避難生活
25年間、停戦と戦闘を繰り返す政府軍と反政府勢力の武力対立
爆撃、地雷、誘拐、略式処刑、人道援助従事者に対する攻撃
前線地域で負傷者を治療する医療従事者の不在
5:スーダン: 絶え間なく繰り返される戦闘、大量虐殺、略奪行為
植民地独立後、50年間武力紛争の絶えない国
2005年の南北内戦の停戦後も止まないダルフール地方の虐殺
人口の14%、500万人以上が今も国内避難民
子どもの6割が栄養失調状態
6:エチオピア: 緊急に食糧援助を必要とする人びと、800万人
干ばつと洪水を繰り返す厳しい気象条件と、農村開発の遅れによる慢性的な食料不足
2008年、大干ばつと世界的食糧危機が追い打ち、8ヶ月間で食料価格が200%上昇
7万5千人の子どもが重篤な栄養失調状態
7:ケニア: 続く氏族間対立と土地分配を巡る争い
暴力を逃れて国内避難民35万人
2007年末、大統領選挙の結果を巡り争乱状態が発生
銃やナタによる無差別襲撃にさらされ新たに50万人が避難
8:ジンバブエ: 世界最悪のインフレ率、失業率80%、300万人が経済難民に
政治・経済の崩壊で医療制度が壊滅、平均寿命40.9歳
成人の5人に1人がHIV感染、5歳以下の子どもの死因の4割がHIV/エイズ
コレラや結核の感染も深刻
9:コンゴ民主共和国: 第二次世界大戦以来最悪の紛争、10年間で死者・行方不明者400万人
2007年、戦闘の激化で新たに57万人が家を追われ計130万人が国内避難民に
年間62万人の子どもが死亡、その半数は栄養失調による
性的暴行を受ける女性が年間数万人、少年兵にされた子ども数万人
10:ソマリア: 2007年、首都での戦闘激化により国内避難民の数100万人に
全土で続く内戦により、中央政府も医療制度も機能していない
悪化する治安状況により人道介入が困難
大干ばつもあり、栄養失調が急激に悪化
11:中央アフリカ共和国: 村を焼きはらわれ、森林に隠れて暮らす人びと
繰り返されるクーデター、蔓延する暴力
武装強盗団の襲撃により、国内避難民20万人
国民の66.6%が一日1ドル以下で暮らす
子どもの半数が栄養失調
12:チャド: 治安状況の悪化が続く中、妨げられる人道援助
ここ数年の内戦激化や隣国スーダン民兵の攻撃により18万人が避難
スーダンや中央アフリカ共和国から逃れてきた31万人の難民も混在
度重なる洪水や武装勢力の襲撃が、他に頼るもののない人びとへの援助を遮る
13:コロンビア: 続く内戦状態、380万人の国内避難民
40年以上続く、政府軍、民兵、反政府軍による内戦状態
都市のスラム街の劣悪な衛生環境、身を潜めて暮らす人々
地方では反政府軍の道路封鎖により医療アクセスに制限
14:イラク: 難民230万人、国内避難民280万人、国民の2割が今も避難生活
2003年開始のイラク戦争以降、今も続く紛争状態
連日民間人に負傷者、破壊された経済社会インフラ
イラク人医師の半数が国外に脱出、戦傷者の治療や心理ケアの絶対的不足
15:チェチェン共和国(ロシア連邦): 今も続く銃撃戦、暗殺、誘拐などの暴力、満たされない医療ニーズ
ロシア政府と分離独立派の紛争終結から4年、北コーカサス地方全体で続く暴力
国内避難民10万人以上
爆撃で家を失った多くの人々が仮設住宅で生活
16:グルジア: 2008年、武力衝突発生
分離独立を求める南オセチア自治州での武力衝突がロシア軍とグルジア軍の戦闘に発展
15万人以上が避難民となる
インタビュー: 10:ソマリアより
子どもたちを連れて、ここのキャンプに逃げてきました。夫は亡くなりました。
一番下の息子は、逃げている途中で、戦闘のさなかに産まれました。この子は生後37日で病気になりました。今、7ヶ月ですが、具合はどんどん悪くなりました。MSFが紹介してくれて、18日前にこの診療所に来ました。来たときはこの子は骨と皮の状態でしたが、今はご覧のとおり、、大きな希望が見えてきました。
私たちの生活条件は非常に悪いです。私は布と棒でつくった小屋に住んでいます。支援は全く受けておらず、ビニールシートすら持っていないのです。
( 2008年6月、首都モガディシオの郊外、ハワ・アブディの診療所に子どもを連れてきた女性 )
これだけ圧倒的な数字を前にすると、MSFだろうがUNICEFだろうがAMDAだろうが全てが無意味に思えてきても無理はありません。MSFも
「MSFが世界の全ての緊急事態に介入し、全ての人を救えるわけではありません。私たちの持つ専門性と寄付によって支えられる貴重な資金を使って、最大の効果を発揮し、できるかぎり多くの命を救うには、いつ、どの地へ駆けつけるべきなのか、その問いに向き合いながら活動を続けています」
と述べています。非常に合理的でいかにも西洋文明社会の考え方であり、そしてその行動力はノーベル平和賞に相応しいものと思います。ただ、西洋的哲学の押し付けがイラクにどんな結果をもたらしたかも忘れてはならないでしょう。
そして東洋には「無常」という思想もあります。人がどのような状況下で生まれ、どのような生老病死に苦しもうとも、それは仕方のないことなのだ、という哲学を持つ人がいても、何びとたりともその人を責める資格はありません。
しかしその上で、少しでもこのような世界の現実が不条理であり、先進諸国の前々世紀からの圧政・植民地政策、産業革命による環境汚染・温暖化、新自由主義経済による富の極端な一極集中等々のつけを、このような世界に押し付けているのだと感じるならば、何か自分のできる事を考えてみてもいいのではないでしょうか。それが免罪符になると言うわけでは決してありませんが、MSFを応援するのも一つの選択肢だと、私は思います。
『 皆様からの寄付でできること
5,000円で、
50人に髄膜炎、はしか、ポリオの予防接種を行えます。
10,000円で、
2人の重度の栄養失調児を集中栄養治療キットを用いて治療できます。
20,000円で、
600人の避難民に清潔な飲み水を1ヶ月間供給できます。
(国境なき医師団日本 HPより抜粋) 』