ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

国境なき医師団報告2008(前)

Msfemergencymap2
 このブログでは度々国境なき医師団(MSF)の活動について報告してきましたが、先日今年を総括する報告(REACT)が届きました。マスコミは先日のインドのテロなど大きな事件があれば報道しますが、リーマンショック以来、不況、物価高、雇用不安、茶番政治不信、凶悪事件、医療危機等々、ますます内向的な報道の比率が増えているように感じます。
 もちろんわが国を含めた先進諸国が百年に一度とも言われる未曾有の経済危機に直面している事は確かです。しかし、本当にそして現在進行形で、新自由主義経済を振りかざしてきた先進国の犠牲となり生命の危機に晒されているのは一体誰なのでしょうか?
 その答えを端的に示した今回の報告書の見開きページを写真に撮ってみました。「世界の緊急事態地図」です。青文字が総論、白が各論です。先ず今回は総論から写し取ってみましょう。

[ 総論 ]
1:栄養失調: 毎年500万人が栄養失調で死亡
 2千万人が栄養失調で生命の危機にある
 2008年は世界の食料価格が54%高騰、1億3千万人が飢えに直面

2:妊産婦/乳幼児死亡率: 基礎的な医療さえあれば救える多くの命
 世界では3秒に1人の子供が命を落としている
 多くは栄養失調、はしか、マラリア等の感染症、下痢症が原因
 出産時に母親が死亡する確率はアフリカでは先進国の100倍

3:HIV/エイズ: 感染者数3320万人
 15歳以下の子どもの感染者210万人
 2007年には新たに270万人が感染
 エイズによる2007年の死亡者200万人のうち150万人がアフリカの患者

4:マラリア: 毎年5億人が感染し、100万人以上が死に至る
 胎児死亡の6割、母体死亡の1割の原因となっている
 50秒に1人のアフリカの子どもの命を奪っている

5:自然災害: 増加の一途をたどる自然災害件数
 2007年には計414件の自然災害が発生、1万6847人が死亡、2億1100万人以上が被災
 特に水害の件数は2000年以降毎年平均8.4%増加

6:結核: 毎年新たに900万人が発病、150万人が死に至る
 120年前から変わらない検査法による発見率は50%
 従来の薬が効かない多剤耐性結核患者(MDR-TB)、進まない新薬の開発

インタビュー

3(エイズ)に関して:

私がHIVに感染していることが判明したとき、ARV薬(*)はまだ手に入りませんでした。私は1年間治療も受けられず、その間に症状は悪化していきました。しょっちゅう熱を出して、結核にもかかりました。結核治療薬の副作用にも苦しみました。一度目を閉じるともう自分の力でまぶたを開くことができなくなりました。誰かの助けが必要だったのです。食べることもできず、いつも痛みを訴えていました。唇がくっついてしまい、お腹がすいても口を開いて食べ物を飲み込むことさえできませんでした。
( タイの13歳の少女 )(*ARV薬:抗レトロウィルス薬)

5(自然災害)に関して:

私たち夫婦は生きていますが、たった一人の子ども、3歳の娘を失いました。嵐が来て水位があがってきたとき、私たち三人はいっしょにいて、逃げ延びようとしました。嵐は6時間か8時間ぐらい続きました。嵐の中で3、4時間たったとき、私は妻に言いました。「私は子どもを救わないといけないからおまえを助けられない」。妻は同意して言いました。「いいわ、その子を助けてください」。私は娘を肩に乗せてひたすら泳ぎました。3時間後私は娘に言いました。「もうおまえを助けられない。なぜなら二人とも死んでしまうからだ」。それで、私は娘を失いました。彼女を置き去ることしかできなかったのです。妻は、木の枝を見つけてつかまって生き延びていました。私たちは避難キャンプで再会し、二人で泣きました。
( ミャンマー・サイクロン被害、MSFの移動診療に妻とともにケガの治療にきた男性 )

 いかがですか?世界人口の大勢を占める世界の現実はこんなものです。このような現実に対する日本のマスコミの姿勢に関して最近思うところが二つありましたので、今回はそれを記して最後にします。

1: 以前拙ブログでボロクソに貶した映画「相棒ー劇場版ー」ですが、取り扱っているテーマはこの地図にも載っている南米某国での誘拐ビジネスでした。そして、今TVで放映されている「相棒 Season7」の第一話では、これもこの地図に載っている東南アジアの某国軍事政府の人道援助搾取をテーマとして扱っていました。このようなテーマには方々から圧力がかかるものですが、あえてそこに踏み込んだプロデューサーの見識には敬意を表したいと思います。

2: マラソンの中継を見ていていつも思うことがあります。エチオピアケニアの二つの強国が実はこの地図に載っているのです。
 そのような国からどんな思いを胸に選手たちは世界を転戦しているのでしょう。日本での中継ではアフリカ勢を強力なライバルとしか扱わず、脱落していくと心なしかアナウンサーの声が嬉しそうに聞こえるのは私だけでしょうか。
 また、日本へ留学している選手が大きな大会で優勝したら「日本が育てた」という事ばかり連呼するのはいかがなものでしょうか。
 そして英国外務省書記官だったマーラ・ヤマウチ選手がこのような世界の実情をより多くの人々に知ってもらうため、そしてサポートするために走り続けているのだという事をこの前の東京女子マラソンのTV中継で一言でも紹介してくれたでしょうか?悲しいことに私が聞く限りではありませんでした。

 次回はそのような世界各地の各論を手動OCRしてみたいと思います。