ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Viva la Vida or Death and All His Friends / Coldplay

Viva la Vida
 脳味噌幼生成熟な日本人観光客がヨーロッパまで行って書いた恥晒しな落書きは低脳そのものですが、ドラクロアの名作「民衆を導く自由の女神」に白ペンキで大胆に

VIVA LA VIDA

と落書きしたジャケットが鮮烈な、Coldplayの新作の方は掛け値無しの傑作のようです。

1. Life In Technicolor
2. Cemeteries Of London
3. Lost!
4. 42
5. Lovers In Japan/Reign Of Love
6. Yes
7. Viva La Vida
8. Violet Hill
9. Strawberry Swing
10. Death And All His Friends

 正直言ってこのバンドの事は殆ど知りませんが、このアルバムは「大作主義」で作られている気がします。ブライアン・イーノをプロデューサーに加え、

「一丁ここらで勝負に出てやれ!」

と言う心意気で意欲的に取り組んだ結果でしょうか、凝りに凝ったコンセプトアルバム的な匂いを感じます。

 1の力強く心躍るようなインスト曲でアルバム世界へ引き込み、2では英国独特の翳りのあるボーカルを聴かせたかと思うと一気にロック魂全開。しかもその後も一曲の間に曲調をガラッとかえる趣向も凝らしており、このあたりはイーノのアンビエントエスニック音楽への造詣の深さを思う存分利用している印象があります。

 そしてクライマックスはセンスの良さではピカ一のApple社のCFで全世界に強烈なインパクトを与えた7の「Viva La Vida」。アルバムタイトル名の一部にもなっていますが直訳すると「生命万歳」と言ったところでしょうか。画家のフリーダ・カーロとは何の関係もないようです。
 その題名とは相反するように詞は、かつて王として君臨した没落者の落魄の述懐が延々と続きます。「Jerusalem Bell」とか、「Roman Cavalry Choirs」とか紀元40年ごろのローマ軍エルサレム侵攻を連想しますが、アルバムジャケはフランス革命、まあ難解で不思議な歌です。
 その様な歌詞の難解さにもかかわらず、演奏の方は実に分かりやく良くできています。イントロでストリングスが軽快なリズムを刻むのはどこかで聴いたような気もしますが、それにドラムが加わり、中間部では鐘も鳴り響と大変凝ったアレンジをしているにもかかわらず、ロックらしいシンプルで力強い曲調が全体を貫いています。U2のボノを思わせるボーカルも渋いですね。ちなみに私はTVCMを初めて聴いた時、U2がまたiPodの宣伝やるのかと思いました。

 その7からラストまでは怒涛のラッシュで充実した演奏が続き、最後の10で見事に幕を閉じます。10もアルバムタイトル名になっていて「死とその全ての友達」という暗い題名ですが、こちらの方がむしろ生命への賛歌的な印象を与えますね。歌詞中にも

「I don't wanna follow Death and all his friends」

とあります。彼等がひねくれているのか、イーノがひねくれているのか(笑、実はこちらの方が「生命賛歌」なんじゃないでしょうか。
 そしてこの曲を貫いて1と同じ主題のメロディーが鳴り続けており、アルバム自体が一つのロンドを形成しているようです。「正と死」が主題であるならばこのアルバム自体が一つの輪廻なのかもしれません。

 そして曲の最後はシガー・ロスを思わせるような静謐のうちにアルバムは幕を閉じます。さすがイーノ、一筋縄ではいかないアルバムを作ってきたな、とは思いますが、こういうケレンを好きか嫌いかで好き嫌いが分かれるアルバムでもあると思います。まっ、とりあえず輸入盤くらいの値段であれば「Viva La Vida」を聴くだけでも元は取れると思いますが。