ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

井上道義のベートーヴェン:第二回 傑作の森@西宮

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(風の中のベートーヴェンブールデル作、兵庫県立芸術文化センター
 今月兵庫県立芸術文化センターでは「井上道義のベートーヴェン」と題して芸術文化センター管弦楽団(PACO)特別演奏会が催されています。

 なんと4週にわたり交響曲1~8番とミサ・ソレムニスを演奏すると言う壮大な企画です。是非通しで聴きたいところですが(実際通し券の売れ行きは凄いそうです)、残念ながら今の体調ではちょっと無理。そこでまず第2回を聴いてきました。4,5,6番と言う傑作の森の時期の交響曲を一気に聴いてしまうという贅沢な企画です。

日時: 5月16日(金)午後3時~

指揮  井上 道義 
管弦楽  兵庫芸術文化センター管弦楽団 

ベートーヴェン交響曲第4番 変ロ長調 作品60 
ベートーヴェン交響曲第5番 ハ短調 作品67 「運命」 

~intermission~

ベートーヴェン交響曲第6番 ヘ長調 作品68 「田園」

 PACOの常任指揮者は佐渡裕氏ですが、今回の指揮者は日本を代表する高名な指揮者の一人、井上道義氏です。以前マーラーをにわか勉強したときに氏の解釈を色々と勉強させていただいたことがありました。その時の頭の中のイメージとして理論派の気難しい方なのかなと言う印象があったのですが、今回実際に井上氏を拝見してがらりと印象が変わりました。とても気さくで陽気なおじさんでした(笑。

 指揮者の立ち位置には指揮壇も無く、ぽつんと譜面台を置いてあるだけです。しかも4,5,6番とも知り尽くしておられるのでしょう、譜面は一切無し。何となく「平民宰相」と言う言葉を思い浮かべてしまいました。

 にこやかに登場され、格段のけれんみも無く曲を開始されます。指揮棒は持たず、両手と全身で曲想、ペース、強弱を具体的に表現しておられ、とても分かりやすかったです。多くの場合各パートでの主要楽器の方を向いておられ、特に独奏楽器のキモの部分では「さあいけ!」と言う風に演奏者を指さしておられたのが印象的でした。

 4番は「二人の北欧神話の巨人に挟まれたギリシャの乙女」と評されるように、ベートーヴェン交響曲の中では小品ですが、それなりに優美なところとエネルギーに満ちた豪快な部分が混在し面白かったです。特にティンパニが後半活躍するのですが、ティンパニ奏者の方がしょっちゅう革の張り具合を耳を押し付けてチェックしておられるのが妙に気になりました(笑。

 さて、二人の北欧神話の巨人の片方、問答無用の名曲5番「運命」です。私がとやかく言っても始まらないので井上氏の解説を箇条書きにして見ましょう。見事にこの曲の真髄が見えてきます。

「今は町のそこかしこでしょっちゅうベートーヴェンを耳にする時代です。本当はそんな事は良くない。こういう曲は人生に何回かこういう場所で聴いて幸せになるのが正しい聴き方です。」

「この曲は何故名曲か?誰でもすぐ覚えられるメロディがあるからです。それが全てではありませんが名曲の大事な要素です。」

「例えば第一楽章、誰でも知ってるジャジャジャジャ~ン、弦楽器で3度、その後を受ける管楽器では5度、実はこの楽章は3度、5度しかないんです。続く第二楽章は4度、これも親しみやすいメロディです。一方最後の方はどうですか、全ての要素が総合されてしまうのでみなさん面白くないでしょ!(笑」

「この若い楽団を見て頂いても判るように、最近は本当に女性が多い。本当は5番は男のやるもんなんです。もちろんベートーヴェンの頃も『音楽なんて女子供のやるもんだ』と言う風潮はありました。それを覆し男が真剣に演奏する価値のあるものだと知らしめたのがこの5番なんです。だから練習でも女性演奏者に『そこはもっと男っぽく演奏してください』と申し上げておりました(笑」

「これだけポピュラーな曲ですから気心の知れたオケだったら、『まっ、いつものとおりやろうよ』で簡単なんです。でも初めて振るオケでは意外と指導が難しいんです。今日は、このオケならこういう方向しかないと言う演奏をお聴かせします。さて、ちょっとこのまま入る分けにも行きません、出直してきます(笑」

と、一旦下手へ引っ込んで再登場されて始まった5番は、とても若々しくて爽やかな「運命」でした。冒頭のジャジャジャジャ~ンが余りにも綺麗に滑るように導入されたので一瞬えっ?と思いましたが、確かに若くて伸び盛りのこのオケにはこのような演奏が相応しいのだろうな、と演奏が進むにつれて納得しました。

 休憩時に思わぬ知人にお会いしたりして、やっぱりベートーヴェンだなあなんて思いつつ、再び席に着き後半の「田園」を待ちました。ちなみに平日お昼、好天と言う状況にもかかわらず、大ホールはほぼ満席でした。再登場した井上氏も

「次の曲はこういう場所ではなく今日の六甲のような場所の曲です」

とMCして始められました。とても美しく牧歌的な第一主題がホールを包み込みます。第5楽章まである長い曲ですが、鳥が囀ったり、途中に嵐が来たり、めまぐるしい変化を伴いつつ一気に聴かせてしまう飽きない構成となっています。殆ど全ての楽器に見せ場が作られていますが、特にフルートの外人の方の演奏が素晴らしかったです。プログラムを見ると

「ゲスト・トップ・プレーヤー: ザビエル・ラック」

と言う方でした。

 終了直後ブラボーの掛け声がかかり、嵐のような拍手の中、何度も再登場され、とても充実した演奏だったことを示すかのような満足した笑顔を見せておられたのが印象的でした。アンコールはありませんでしたが、これだけの曲を聴かせていただければ十分ですね。次回は最終プログラムの「ミサ・ソレムニス」を聴きに行くつもりです。某氏より睡魔との闘いと聞いていますがさてどうなりますことやら(^_^;)、お楽しみに。