ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Avanti!/ Giovanni Mirabassi (2)

Pinochet
(Augusuto Jose Ramon Pinochet Ugarte, 1915-2006)

はむちぃ: さて「AVANTI!」レビューの二回目は各論に入ってまいります。
ゆうけい: 16曲ございますので半分に分けて先ずは1~8曲目をレビューいたしましょう。

1: El Pueblo Unido James Sera Vecido (Sergio Ortega - Eduardo Carrasco)
  写真:アウグスト・ピノチェト、クーデター直前、1973年

は: さて一曲目ですが、不安に満ちたマイナー和音の連打で始まります。革命歌集という事もあり思わず身構えてしまいますが、その後驚くほど美しい旋律が流れ始めるのにはびっくりいたしました。
ゆ; 何も言われないで聞いたら晩年のビル・エヴァンスの諦観に満ちたマイナー曲かと思ってしまいますね。本当にサンチャゴに雨が降る情景が目に見えるようです。

は: 「サンチャゴに雨が降る」はチリ社会主義民共同派(アジェンデ派)と右派軍部(ピノチェト)の凄絶な戦いを描いた映画でございましたが、まさにその渦中の1973年に生まれた曲でございますね。
ゆ: セルヒオ・オルテガによって作られた名曲ですね。題名は「団結した人民は決して敗れない」と言う意味ですが、当時日本では「不屈の民」の題名で知られていたように記憶しています。
は: この曲の成り立ちがブックレットに記載されておりますが、オルテガ様が路上で歌われている曲を聴いてお作りになったとか。
ゆ: 漁った資料を参考にもう少し詳しく解説しますと、1973年7月、ピノチェトの軍事クーデターの少し前、サンチャゴの財務省前広場で一人のストリート・シンガーが革命歌を歌い叫ぶ様に心を動かされたらしいです。後日、2・3人の仲間がオルテガの自宅に集まった際にその曲を思い出しピアノで弾いて出来上がったのがこの曲で、僅か二日後にはその曲は超満員の観衆の中、キラバジュンによって演奏されたそうです。もちろんストリートで歌い叫ぶシンガーも心を動かすでしょうけれど、後年まで残る名曲として完成させたオルテガも立派です。

は: にも関わらずアメリカの後押しもありピノチェト政権が誕生しその後数々の虐殺が起こりますね。
ゆ: ビクトル・ハラもその犠牲者の一人でしたね。ザ・クラッシュはアルバム「サンディニスタ!」の中でそれを告発し、スティングはソロ第二作「ナッシング・ライク・ザ・サン」に2曲ピノチェトの虐殺を告発する曲を収録しています。そのうちの一曲が名作「フラジャイル」ですね。
は: ピノチェトはそれでもアメリカと言う強い後盾により長く政権を維持しますね。
ゆ: 東西冷戦が終了してアメリカが見放すまでね。でも彼はその後も生き延びて亡くなったのは僅か二年前のことなんですよね。冒頭にクーデター直前と晩年の写真を合成してみましたが、アメリカに利用され捨てられた悲哀も感じますし、権力の儚さと醜さを体現しているような気もします。

2: Le Chant Des Partisans (Anna Marly, Joseph Kessel, Maurice Druon )
  写真:第二次大戦のフランスのパルチザン、1944年8月

は: 二曲目は一転して軽やかなシャンソン風の曲調でございますね。
ゆ: GMも本当に心弾むように楽しげに弾いてますよね。このアルバムには各国のパルチザンの歌が収録されているんですが、これはもっとも有名な一曲ですね。直訳すると「パルチザンの歌」なんですが、「自由の歌」と言う呼び名の方が遥にポピュラーでしょう。
は: ドゴールの自由フランスを象徴する曲でございますよね。
ゆ: 作曲者のアンナ・マリーはロシア人ですけどね。ブックレットの解説を読むと元々スモレンスクレジスタンスのために作った曲だそうです。

3: Ah! Ca Ira (Becourt - Ladre)
  写真:フランス革命、1789年10月5日 

は: これも説明不要の名曲、フランス革命を代表する歌「サ・イラ」でございます。エディット・ピアフ様の熱唱でご存知の方も多いかと存じます。
ゆ: べクールと言う人が作曲しマリー・アントワネットもお気に入りでハープシコードで弾いていたとか。後年革命派の歌詞がつくとは彼女も想像だにしなかったでしょうね。断頭台に消える運命の彼女を思ってか、GMは左手で緊張を強いる不協和音を、右手で有名な旋律を弾くという粋なアレンジをしていますね。
は: ちなみに「サ・イラ」とは「希望あれ」と言う意味でございまして、米国の駐仏大使ベンジャミン・フランクリンも好んだ言い回しだとブックレットに記載されております。
ゆ: 近年ロジャー・ウォーターズも同名のオペラの音楽監督を担当しております。

4: Le Temps Des Cerises (Jean-Baptiste Clement, Antoine Renard)
  写真:パリ・コミューン、モンマルトルの大砲、1871年

は: フランスの曲が続きます。一世紀下りまして時はパリ・コミューンの時代、これも有名な「桜んぼの実る頃」でございます。
ゆ: GMは軽やかに涼しげに弾きはじめます。まるでシャンゼリゼの恋人たちを祝福しているかのようです。でもこのシャンソンパリ・コミューンの悲痛な歴史と深く結びついているんですね。だから後半の盛り上げ方は彼のこの曲への、そしてパリ・コミューンへの思い入れの深さを物語るかのようです。
は: パリ・コミューン1871年に、パリの労働者たちが権力を握って樹立した、世界初の革命的自治政府でございますね。ブックレットを読みますと作詞者ジャン=バティスト・クレマン様がルイーズと言う女性を悼んで作られた歌だそうでございます。
ゆ: これは世界史の教科書参考書の余録などに良く載っていますね。パリを包囲したヴェルサイユ軍がコミューンと一般市民への大量虐殺を行った「血の一週間」の最中に、詩人クレマンが若い野戦病院付看護婦ルイーズと出会うのですが、 彼女は手に桜んぼの入った籠を携えていたといいます。ルイーズはかいがいしく負傷兵の手当てにあたっていましたが、クレマンが二度と彼女を見る事はありませんでした。彼女も犠牲者の一人になってしまったからです。そしてこのシャンソンは次の献辞とともに彼女に捧げられました。

1871年5月28日日曜日、フォンテーヌ・オ・ロワ通りの看護婦,勇敢なる市民ルイーズに」

は: ちなみに5月28日はコミューン陥落の日でございます。ジャン=バティスト・クレマン様のお墓には今も作り物の桜んぼがそっと添えられているそうでございます。

5: Hasta Siempre (Carlos Puebra)
  写真:コンゴチェ・ゲバラ、1965年

は: いよいよチェ・ゲバラが登場してまいりましたね。
ゆ: 昔の雰囲気左翼の憧れの的でしたもんね~。彼の著作を知たり顔で茶店で読んでる学生をよく見かけたものです。掲載されている写真はコンゴ時代のものなんですが、ブックレットによると代表作の一つ「革命戦争の旅」はこのコンゴでの活動が失敗に終わった後に書かれた本なんですね。
は: カストロの「別れの手紙」が発表された際キューバの作曲家により作られた曲だそうでございますが、丁度その直後くらいの写真なのでございますね。
ゆ: もうこの写真の一年後には銃殺刑が待ち受けているんですが、その様な過酷な運命を象徴するかのような陰鬱な余韻を残す演奏ですね。
は: アルバム中この曲で唯一使われているサウンド・イフェクトが銃殺刑を暗示しているかのように響きますね。
ゆ: ピアノソロと言うクレジットしかないので直接弦を払ったりしてるのかもしれませんが鳥肌が立ちますね。 

6: Je Chante Pour Passer Le Temps (Leo Ferre, Louis Aragon)
  写真:ルイ・アラゴン、1945年

は: 続いてはルイ・アラゴン様でございます。ダダイストシュールレアリストとしても有名でございますが、後に共産主義に傾倒され数々の著作を残されました。
ゆ: ルイ・アラゴンまで出てくるとはねえ、ライナーには思想自体には興味が無いようなことを書いてますが、実はGMってコミュニスト?って思っちゃいますね。
は: そのアラゴン様の詩に曲をつけたレオ・フェレ様もまた左岸派シャンソン歌手の超大物ですしね。
ゆ: さすがレオ・フェレの作曲だけあって実に味わい深いメロディラインではありますね。

7: Sciur Padrun Da Li Beli Braghi Bianchi (trad.)
写真:シルヴァーナ・マンガーノ(映画「苦い米」の主演女優)、1949年

は: この曲は革命とは趣を変えまして民衆歌の一つでございます。
ゆ: イタリアの有名な「田植え女」の歌ですので、平易で親しみやすいまるで童謡のようなタッチの楽しい曲調になっています。しかし「田植え女」の実情は、家族から離れ女だけの共同生活で過酷な重労働を強いられていたそうです。題名は

「うちらのボスはかっこええ白い服を着てはるわ」

と言う意味だそうですが、まあ

「それにひきかえうちらの格好はどやさ(byいくよくるよ師匠)」

てな感じなんでしょうね。
は: そういう過酷な労働実態を描いたセミドキュメンタリー映画が1949年の「苦い米」というネオリアリズムの傑作でございますね。
ゆ: ブックレットに掲載されているのはそのスチール写真なんです。だから「田植え女」もとびきりの美人(笑。幾らなんでも報道写真じゃないですよね。
は: その後ヴィスコンティ映画「ベニスに死す」や「ルドヴィヒ」などの傑作で中年女性役で活躍されるシルヴァーナ・マンガーノ様がまだ若々しくお美ししゅうございますね。

8: El Paso Del Ebro (trad.)
写真:スペイン市民戦争、エブロ川の戦い、1938年2月12日

は: いよいよ今回最後の曲となりましたがトリにふさわしく、題材は「国際旅団」として多くの文化人が参加したことでも有名なスペイン内戦でございますね。
ゆ: アンドレ・マルローの「希 望」、ヘミングウェイの「誰が為に鐘は鳴る」、ジョージ・オーウェルの「カタロニア賛歌」等々数え上げればきりが無いですね。ピカソの「ゲルニカ」もこ の戦争が題材ですし、掲載された写真はジャン・マイトロンのものですがあのロバート・キャパも従軍して写真を撮ってたんですよね。
は: さてこの曲でございますが、ブックレットによりますと、もともとはナポレオン遠征時代のスペインのパルチザンが歌っていたラブソングだったそうでございますが、スペイン内戦の「エブロ川の戦い」で散っていった共産党員兵士たちへの鎮魂歌となっていったそうでございます。
ゆ: 史上に名高い激戦で反乱軍・政府軍ともに多大な犠牲を払った消耗戦でしたから、ラブソングにしては沈鬱なメロディラインですよね。

は: 皆様長丁場お付き合いありがとうございました。今回はこれまでにいたしまして小休止を頂きます。そういえば今回はご主人様のボケも少なく私メの疲労感も少のうございました(^_^;)。
ゆ: 題材がシリアスなものばかりですから仕方ありませんね、できることならフランス革命Higedanshaku_2あたりで髭男爵のネタを入れたかったんですが(笑。う~ん、今年のファンタは出来がいい、あっはっはっはっは~。
は: はいはい、次回をお楽しみにと言いたいところですが不安一杯になってまいりました(ーー;)。
ゆ: おっとそれは事情が変った、な!大丈夫だよ君私に任せたまえ、あっはっはっはっは~(不安倍増。