ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ストリングス

ストリングス ~愛と絆の旅路~
は: 今回の映画レビューは趣向を変えましてデンマークの人形劇映画「ストリングス」を取り上げてみました。
ゆ: まあ身も蓋もない話をすれば、はむちぃ君だって現実世界の私に操られているわけですが、操る糸(ストリングス)を見せないようにいつも気を遣っているわけでございます。ところが、この人形劇ではその糸に大きな意味を持たせており、この逆転の発想が大変素晴らしい作品を産んだといえましょう。

『”マリオネット”。そこは全ての生き物が天上と糸で結びつけられている世界であった。ある夜、ヘバロン王国の王、カーロが自らの行いを悔い自害する。息子ハル王子に国の平和を託す遺書を遺して。しかし君主の座を狙う王の実弟ニゾとその家臣ガラクは真実を隠蔽し、その死を敵対するゼリス一族の長、サーロの仕業に見せかける。暗殺されたと信じたハルは家臣エリトと共に仇を討つため旅立つのであった。』

は: おっしゃるとおり、最初に人形たちを操るスタッフ(人間)がいる舞台裏を写すところから始まりまして、操り糸をつたってカメラは地上に下りてゆき、そこから物語が始まりますね。
ゆ: この糸が「神と人形を結び命を与えている」と言う設定なんですね。だから糸が切られるとその部分は動かなくなり、奴隷から新しいパーツを補充しなくてはなりませんし、頭の糸が切られると絶命するんです。この設定がこの映画に文字通り生命の息吹きを吹き込んでいますね。
は: そしてこの糸は様々なシーンで印象的に用いられております。戦闘シーンでは通常映画のリアルな立ち回りとは一味違った醍醐味がございますし、ラブシーンでは男女の愛の交歓を象徴的に描いております。
ゆ: 物量作戦で力づくで描くハリウッド映画や徹底的に細部まで描きこむ日本アニメとは全く違った象徴主義的で高尚な手法ですね。クライマックスとなる戦いの情景など、上空の糸の交錯と空の色の変化により象徴的に表現していて見事なものです。制作したスタッフには素直に恐れ入谷の鬼子母神でございます。

は: 鬼子母神で思い出したわけでもありませんが日本の能・狂言文楽などの侘び寂びの世界観にも通じるところがございますね。
ゆ: おっ、はむちぃ君なかなか鋭いですね、物語自体は民族紛争や王位継承を巡るドロドロした世界が描かれているんだけど、不思議と生臭くないのはそう言うことかもしれませんね。

は: その一方で人形の見せる演技も素晴らしゅうございますしね。
ゆ: 主要人物の顔の半分を画面端に大写しにする場面が頻出するんですが、その感情表現たるや大したものですね。きいちご賞映画に出ていた方々には是非参考にして欲しいです(笑。
は: 入手した情報をまとめますと、人形師は欧州各国から集められた精鋭22名、それぞれの人形は長さ5メートルの糸で上から操られ、一体当たり5人がかりで動かしているそうでございます。全部で115体用意された人形を操る糸の長さは、のべ10キロメートルにも達し、撮影だけでも23週間かかっております。CGなどのは一切用いていないそうでございます。
ゆ: それでこその人形の演技力なんですね。権力闘争や民族間の憎しみ合いの悲惨さ愚かさが人形達の演技を通じて本当に良く描かれていたと思います。ラストシーンの、頭を糸を切られて亡くなった主人公の妹が筏に乗せられて海へ流されていく情景の哀しさ、美しさは映画史上に残る名シーンと言っていいのではないでしょうか。
は: 寄り添っていた鳥が初めて大空へ羽ばたくシーンでは、はむちぃめも涙を禁じ得ませんでした(T_T)。

  、、、ところでご主人様、日本語版については言及無しでございますか?
ゆ: 庵野秀明がメガホンを取ったジャパン・バージョンですか、どうなんでしょうね、あの声優陣で期待しろという方が無茶じゃないんですか?
は: ここまでべた褒めしてきて最後の最後にまたまたその様な過激な発言を(--〆)。
ゆ: まあこの映画のDVDの入手を容易にしてくれたことには感謝しますけど、ちゃんと英語版も入っていますので先ずはそちらを鑑賞するべきでしょうね。
は: 英語の理解できないお子様には日本語版だけでも十分楽しめますでしょう。
ゆ: まあそう言えばそうなんですけど、この映画は人形劇だからと言って決してお子様向けではありません。むしろ映画・芸術をある程度理解できるようになった年齢層に観ていただきたいですね。