フランス、ウェールズで催されていたラグビー・ワールドカップが南アフリカ・スプリングボックスの優勝で幕を閉じました。フットボールの球を手に抱えて走った事で歴史上名高い少年にちなんで名付けられたエリス・カップを高々と掲げる大男は、背の高さからみて世界一のLOコンビ、マットフィールド&ボタでしょうか?
とりあえず次号のラグビーマガジンに於いて詳細な総括がなされると思いますが、ここで簡単におさらいしておきましょう。カッコ内は予選プールと開催直前のブックメーカーのチームオッズです。
優勝: 南アフリカ (プールA、7.5倍)
準優勝: イングランド (プールA、34倍)
3位: アルゼンチン (プールD、67倍)
4位 フランス (プールD、12倍)
日本: 1分け3敗 (プールB、5001倍)
最高得点: パーシー・モンゴメリ(南アフリカ、FB) 105点
最多トライ: ブライアン・ハバナ(南アフリカ、WTB) 8トライ
チームオッズ1位でガチガチの優勝候補筆頭だったニュージーランド・オールブラックスが準々決勝でまさかの敗退をしたことが個人的には一番の大番狂わせでしたが、オールブラックスでなければここだろうと言われていた南アフリカが、オセアニア勢には苦戦しつつも結局無敗で優勝した、と言う結果になりました。さすがにスポーツの中で最も番狂わせが少ないと言われるだけのことはありますね。
南アフリカは主将のジョン・スミット(HO)、ヴィクター・マットフィールド、スカルク・バーガー(FL)等のビッグネームを有する世界一のフォワード陣がスクラム、ラインナウト、密集を支配し、驚異的な強さのタックルで防御し、更にはブッチ・ジェームス(SO)、パーシー・モンゴメリ(FB)等が正確なタッチキックで陣地を挽回しと、結果的にみると堅守の勝利と言えます。あと1トライで伝説のオールブラックスのWTBジョナ・ロムーの記録を抜けたはずのブライアン・ハバナが決勝戦において守備に徹していたのがその象徴とも言えましょう。トンガ、フィジーと言った守備泣かせの変幻自在の攻撃を仕掛けてくる相手には苦戦したのも結果的にはご愛嬌と言ったところでしょうか。
プロ化の洗礼を受けた理詰めのチーム作りにより、ワールドカップに於いても次第に攻撃型のチームより守備型のチームにアドバンテージが出てきたのは、華麗な攻撃を観たい一般のファンにとっては痛し痒しです。常に攻撃型のチームを作ってきたオールブラックスが勝てなかったことはその象徴ともいえる事件であり、次回地元開催での大会でどんなチームを作ってくるのか常勝軍団の監督は難しい選択を迫られそうです。
もう一つ目立ったのがキックの重要性ですね。ロートルだらけで予選で南アフリカに零封され青ざめていたイングランドの窮地を救い、準優勝にまで導いたのは天才SOジョニー・ウィルキンソンのキック力でした。そして、今回最大の躍進国であるアルゼンチンの立役者はやはり今大会一番のキック力を誇るSOのファン・マルティン・エルナンデスでした。また、窮地に立たされた地元フランスが決勝リーグにおいて選んだSOは世界的に有名なフレデリック・ミシャラクではなく、キック力のあるリオネル・ボクシズでした。そしてオールブラックスを破ったことで、このベルナール・ラポルト監督の選択の正しさが証明されました。ついでに言えば日本を全敗の窮地から救ったのもウィルキンソン・スタイルが印象的な大西将太郎のキックでした。
さて、日本の成績ですが、率直に言って実力どおりの成績だったと思います。ヘッドコーチの人選が迷走し、ニュージーランドの英雄ジョン・カーワンが就任したときにはW杯まで一年を切っており準備期間があまりにも短すぎたとか、直前にアレジ、安藤、大畑と主力が相次いで故障したとか、予選中にハーフ団が壊滅したとか、色々と敗戦の分析はできるでしょう。しかしジャパンが例えベストの状態であったとしても、予選プールBのオーストラリア、ウェールズ、フィジー、カナダ相手に2勝するのは無理だったと、終わってみて感じます。
そんな中でもカーワン・ジャパンになって戦う姿勢を見せることができ、フランス、ウェールズの観衆によい印象を与えることができたのは不幸中の幸いだったと思います。特にウェールズ戦の、大野のターンオーバーからロビンスー大西ー今村ー遠藤とつないだトライは予選最高のトライと賞賛されました。しかし、健闘もそこまで、セカンドティア(世界ランク10位台)同士のカナダ相手に引き分けるのがやっと、ファーストティアのワラビーズやウェールズには全く歯がたたないという現実は厳しいものがあります。
各国がプロ化の流れの中で理詰めに弱点を修正してきている現在、日本の長所と言われたスピードや走力でさえアドバンテージでは無くなってきています。日本ラグビー協会は、自分たちがトップリーグを立ち上げて強化してきた以上に世界の進歩が速い、と言うことを実感させられたと思います。今後もカーワン体制を支持していくと言うことですが、その成果を4年後に見せられるのかどうか、出場国を減らす構想が出ている今、それさえも危ない状況からどう這い上がっていくのか、注目していきたいと思います。