ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Twelve / Patti Smith

Twelve
 レココレ70年代ロックベスト100の第1位はイギリスのパンクムーブメントを代表する形でセックス・ピストルズが取りましたが、海を渡ったニューヨークでのアンダーグラウンド・パンク・ムーブメントを代表するシンガーはパティ・スミスでした。そのパティ・スミスも今年はロックの殿堂入りしてしまいましたが、創作意欲はまだ衰えていない様で、70年代からの念願であった好きなアーチストの楽曲をカバーしたアルバムをついに完成させました。選りすぐりの12曲で題名もそのまま「Twelve」です。

Patti Smith: vocals, clarinet
Lenny Kaye: acoustic and electric guitar
Tony Shanahan: bass, kbd, vocals
Jay Dee Daugherty: drums, percussion

1. Are You Experienced? - Jimi Hendrix 1967
2. Everybody Wants To Rule The World - Tears For Fears 1985
3. Helpless - Neil Young 1970
4. Gimme Shelter - The Rolling Stones 1969
5. Within You Without You - The Beatles 1967
6. White Rabbit - Jefferson Airplane 1967
7. Changing Of The Guards - Bob Dylan 1978
8. The Boy In The Bubble - Paul Simon 1986
9. Soul Kitchen - The Doors 1967
10. Smells Like Teen Spirit  - Nirvana 1991
11. Midnight Rider - Allman Borthers Band 1970
12. Pastime Paradise - Stevie Wonder 1976

 先日のディラネスクと違ってオリジナルのアーチストにおもねるような歌唱は全くなく、完全にパティ流を貫いています。ですから先ず最初にお断りしておきますが、パティが好きな人にしかお勧めできません。

 その上で楽曲をながめると、とても面白い選曲だと思います。いきなりジミヘンを持ってきたり、TFFを取り上げたりする意外性もあり、またビートルズを取り上げるにしても彼女はジョージ・ハリスンに最も影響を受けていた事や、女性ボーカリストではグレース・スリックが好きだった事などが分かってとても興味深いです。ライナーノーツでそのあたり一曲一曲丁寧に彼女自身が解説しており、これを読むだけでも彼女のファンなら十分楽しめます。

 個人的にはミックよりキーが低いんじゃないの?というくらいどすの効いた声で歌う「ギミー・シェルター」やサイケデリックムーブメントの香りを残した「ホワイト・ラビット」、どうしてディランの歌は他人がバーするとどうしてこんなに魅力的なんだろう?と思わず首を傾げてしまう「Changing Of The Guards」(それにしても難解な詩!)などがツボにハマりました。ちなみに「ギミー・シェルター」と「ホワイト・ラビット」にはレッチリFleaとテレビジョンのTom Verlainが参加しています。

 でも、おそらく今回のベストテイクはニルバーナのカバー「Smells Like Teen Spirit」でしょうね。シンプルな演奏ですが鬼気迫るものを感じます。
 ライナーによると、彼女にとって90年代において最も関心のあったバンドがニルバーナであり、当初は「Heart-shaped Box」をカバーするつもりだったのですが、ある時カーラジオからこの曲が流れてきて、一緒に歌っていると、カート・コバインレッドベリー(1900年代初頭のブルースマン)やロスコー・ホルコム(1960年代のカントリー系ミュージシャン)への愛着を感じ取る事ができて、これをカバーする事に決めたそうです。
 彼の声にバンジョーの響きを感じたパティは、何とカントリー界の大物でロスコー・ホルコムともつながりの深かったジョン・コーエン、昔からの因縁も深い劇作家、俳優のサム・シェパード、そして彼の息子ウォーカー・シェパードをゲストに迎えてバンジョーを弾いてもらっています。
 という事で、上手いんだか下手なんだか良くわからない連中が、あってるんだかあってないんだかわからんような好き勝手なリズムで演奏して行くうちに、次第に演奏は熱を帯びていき、ただならぬ雰囲気が漂い始める、、、というあたりとってもスリリングです。
 カバー集の制作を90年代を越えた21世紀まで待ってよかった、彼女はいまだに熱い「ロック魂」を持っているな、と感じてしまいました。

 最後にジャケット写真のタンバリンについて彼女自身が説明しています。レココレでも22位に入っている名盤「Horses」の歴史的傑作ジャケット写真を撮った、盟友にしてゲイの写真家ロバート・メイプルソープへの彼女の変わらぬ愛が感じられて最後にほろっとしてしまいました。

The Tambourine. I met Robert Mapplethorpe in the summer of 1967, the year that four of these twelve songs were released. Robert stretched the goat skin, tattooed the surface with my astrological sign, and added the ribbons. He presented me with this tambourine on December 30th, 1967, my 21st birthday. ( Patti Smith )

Horses