ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

佐渡裕&芸術文化センター管弦楽団第6回定期演奏会

Pac070112
 兵庫芸術文化センター管弦楽団第6回定期演奏会を聴いてきました。プログラムはマーラー交響曲第6番「悲劇的」です。マーラー6番といえばそう、去年の拙ブログ記事で一番の長尺モノ()となってしまった因縁(笑)の曲です。と言うことで予習十分でオペラグラスとストップウォッチ持参で堪能してまいりました。

『 僕が小学生のとき最初にお年玉で買ったレコードが“マーラー”なんです…(佐渡裕
というくらい、“マーラー”という作曲家に対する佐渡芸術監督の思いは特別なものがあります。
 そこで、定期初のマーラー佐渡芸術監督が選んだのが、交響曲第6番《悲劇的》。
マーラーの人生の中で最も充実していた時期に作曲され、彼の全交響曲の中で最も完成度の高い作品と言われています。限界まで拡大した管弦楽構成や、カウベルや鞭、ハンマーなどを効果的に使用するなど、演奏中も舞台上から目が話せません。その他、第1楽章の妻アルマのテーマや、彼の幼い娘のよちよち歩きからインスピレーションを得た第2楽章、マーラー屈指の名旋律といわれる第3楽章、失意のうちに曲を閉じる第4楽章など、各楽章にも聴きどころが満載。まるで悲劇のドラマを見るようにオーケストラが繰り広げられる音の世界に吸い込まれてみませんか。』(プログラムより抜粋)

兵庫県立芸術文化センター管弦楽団第6回定期演奏会
場所: 兵庫県立芸術文化センター、西宮市
日時: 2007年1月12,13,14日の初日公演、午後7時開演

指揮・芸術監督: 佐渡裕
Yutaka Sado, Conductor & Artistic Director

兵庫芸術文化センター管弦楽団
Hyogo Performing Arts Center Orchestra

曲目:マーラー交響曲第6番《悲劇的》
Gustav Mahler: Symphony No.6 ;Tragische

第一楽章:アレグロ・エネルジコ・ア・ノン・トロッポ
22'56"(バ:23'05"、ショ:21'06")

第二楽章:スケルツォ
13'53"(バ:14'09"、ショ:12'33")

第三楽章:アンダンテ・モデラー
17'55";(バ:16'10";、ショ:15'30")

第四楽章:フィナーレ アレグロモデラート アレグロ・エネルジコ
32'40"(バ:33'06、ショ:27'40")

Total Time: 87'40"(バ:86'40"、ショ:76'49")
(バはバーンスタイン&VPO盤、ショはショルティ&シカゴ響盤の演奏時間)

アンコール:
武満徹:「波の盆」より終曲

 冒頭、佐渡裕さんが登場し、挨拶と演目の解説をされました。ユーモアたっぷり、打楽器の説明にパーカスのエリックさんも登場して場内は和やかな雰囲気に包まれます。解説で理解できたことは、「悲劇的」という標題音楽としてこの曲を理解し演奏するつもりであるということでした。それにはやはり彼がバーンスタインの直弟子であることが強く影響しているものと思われ、「その後のナチスによるユダヤ人迫害を予見したような」とか、ハンマー2発について「原爆を予見していたという説もある」という発言もありました。

 ということはおそらくバーンスタイン直伝の深い思想性を湛えた重厚な演奏で長くなるだろう!と予想できましたが、実際計時してみると総時間88分弱という、なんとバーンスタイン盤より長い大熱演となりました。Tak Saekiさんが心酔しておられるショルティ盤に比べたらなんと10分以上長い!それでいてちっとも退屈しなかったので、これは得しましたぁ(^_^;)
 まあ冗談はともかく、実際聴いているとそんなにゆっくりとした演奏とは思えないのですが、緩急のつけ方や、処々での間の取り方等によって伸びていったものと思われます。とくにアンダンテとフィナーレでその感が強くなっていきましたが、比較してみるとフィナーレはバーンスタインのほうが長く、アンダンテに相当時間をかけていることが分かります。確かに思い入れたっぷりの耽美的な演奏で緩急の緩をじっくりと間を十分撮りつつ演奏されていました。

 さてこの曲最大の問題である第2、3楽章の順番ですが、安心したことに佐渡さんもS-Aを採用されているということでした。Tak SaekiさんはA-Sで演奏されてしまうと

後で脳内補正する

とおっしゃってましたが、私もこの順番の方が入り込めて良いですね。

 この曲でもう一つ話題となるのが様々な打楽器の採用ですが、何と言ってもハンマーが凄かった。わざわざ作ったそうですが大きくてかなり重そうでした。舞台向かって右奥に櫓のような高台を組んでありその上に正面に穴の開いた大きな木箱がおいてあります。それをハンマーで叩く訳ですが、穴の大きさも叩きながら一番大きな音が出るように調節したとか、まさにバスレフ方式!(違。
 ちなみに現在は2発が標準となっていますが、今回はやはりバーンスタインでハンマーは3発、3発目はもともとの楽譜に無い29分あたりのクライマックスで打たれました。あと面白かったのはティーフェス・グロッケンという教会の鐘のような音を出す金属板です。何が面白いかというと

「遠くから聞こえる教会の鐘」

という指定どおり、舞台裏に設置してあり、その都度パーカスの方が舞台から退出して叩きに行かれるのですよ。

 さて総じて演奏は充実した密度が濃く完成度の高いものでした。何しろ総勢108人という大規模なオケを編成されておりあれだけ大きな舞台が超満員、にもかかわらずがさがさしたところや不協和なところがなくよく統率されていました。
 オケがどのように育っていくのかは「のだめ」に詳しいですが(爆、プロのレベルで現実はどうなんだ、ということを常々疑念に思っていました。今回佐渡さんの話や実際の演奏を聴いてみて、指揮者が高名で優秀だと内外から優秀な人材が集まる、そしていつも超満員の観衆が入る、というような要素がオケを育てるのだなあ、とよく分かりました。佐渡さんによると、まだまだ成功に甘んじて安定するのは早い、まだまだ努力して育てていかねばならない、というオケだそうですから今後が楽しみですね。といっても定演の通しチケットは完売だそうです、嗚呼。

あと、楽章毎の感想を少し。

第一楽章
: 冒頭のチェロとコントラバスによる行進曲風主題は通常のテンポで、且つそれほど重々しく無く入りました。その一方で「アルマのテーマ」はウィーン・フィルに聴けるような絹のような滑らかさですっと導入されていくのではなく、意外に野太い感じでガシッと始まりちょっと面食らいました。もちろん弦の美しさは十分出ていましたけれど。それより何より強く感じたのは打楽器の迫力。ティンパニにしろシンバルにしろ「やっぱりCDはコンプレッサーやリミッターで押さえてあるのかなあ」と思わせるくらい凄い音が出ますね、生は。この曲の肝が打楽器であることが良く理解できました。

第二楽章: 安心したことにはスケルツォです。テンポは第一楽章と殆ど同じくらいで入ったように思います。注目していたのは何と言っても佐渡さんの指揮棒です。ずっとオペラグラスで見ていました。というのは以前ブログに書いたのですがこの楽章は3/8なのですが、スピーカーを前にして振っていても全然合わなくなっていくんですね。佐渡さんの神業のような振り具合や矍鑠たる動作は惚れ惚れするほどのものですが、合わないなあと思うような箇所では、、、止まってました(爆。やっぱり2n/8の変拍子が所々に入ったり、同じ3/8でもスピードが極端に変わったりしているものと思われました。やっぱり素人には無理だわ(当然(^^ゞ。
 そう言えばオペラグラスで覗いた佐渡さんのスコアは練習や勉強で使い込んだ感のあるもので、殆どのページに朱が入っていました。楽器の方の楽譜がまっさらで綺麗だったのと対照的でしたね。

第三楽章: この楽章では佐渡さんは指揮棒を握っていませんでした。繊細で耽美的な美しさを出すために、指揮棒無しで柔らかいボディアクションを出そうとしたのでしょう。先ほども述べましたが、緩急を大事にじっくりとオケを歌わせていました。13-15分あたりのクライマックスの美しさには聞き惚れてしまいました。ただ使っている楽器、弦の違いも大きいのでしょうけれど、もう少し音量を落としてでもブーレーズ+VPO盤の様な陶然とするような響きを出してもらえたらなあとは思いました、贅沢な注文ですが。
 そう言えばカウベル、どうやって音を出しているのかよく分かりました。カウベルを直接叩くのではなく、ぶら下げてある金属の輪を揺するだけなんですね。

第四楽章: CDでは睡魔に襲われてしまうスイマーの私ですが(^_^;)、やっぱり生では打楽器にわくわくして最後まで聴いてしまえますね。この曲のクライマックスであることがやっと実感できました。パーカスのエリックさんがハンマーを叩くために櫓を上っていくとみんな固唾を呑んで見守っていました。またそれにも増して終盤のティンパニやグランカッサ、シンバルの咆哮は喝采モノでした。特に3人一緒にシンバルを叩くところなど壮観ですし、かつ音も尋常じゃなく気持ちよかったです。

そして終わった時の佐渡さんの顔が良かった。一瞬泣いているのかと思うほどじっと目を閉じ歯を食いしばり微動だにされませんでした。

やりきった、オケも良くやった!

と言う充実感があふれ出ている気がしましたね。鳴り止まない拍手の中目を開けられたときの笑顔、とても良かったです。

「定演ではアンコールは、普通やらないんですが」と言ってサービスしてくださったアンコールナンバーは武満徹でした。現代音楽のイメージが強かったので大変美しい弦楽演奏に少々驚きました。

 以上大変満足できる公演でした、初日としては出色の出来栄えだったと思いますが、今日、明日とさらに成熟していくのだろうなあ、と思うと毎日聴ける方が羨ましいです。もうチケットはありませんが行かれる方は存分に楽しんでください。