ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

オスモ・ヴァンスカ&ラハティ交響楽団 in 西宮

Pachall3

 10月9日体育の日に西宮市の兵庫県立芸術文化センターで催されたフィンランド・ラハティ交響楽団のコンサートに出かけてきました。現在シベリウスを演奏させたら右に出るものはないとの評価も高いヴァンスカ&ラハティ響の演奏は予想以上に素晴らしく、また最後のアンコールにはビッグ・サプライズも用意されていました。

Pachall2Date: October 9th. 2006, 14:00-16:00
Place: 兵庫県立芸術文化センター大ホール

 このセンターは阪急西宮北口駅南側の再開発に伴い建築され、昨年10月に完成したばかりの新しいホールです。大ホールは4階席まである非常に容積の大きいホールで内装の木質の質感や音の拡散状況も良好でした。席が前から2列目やや右側ということで、近過ぎて音圧が強すぎたら困るなあと思っていましたが、実際演奏が始まると舞台の奥行きが深いことが効を奏してか、とても心地よく聴く事ができました。低音弦が好きな私としては絶好のところでした。また、ピアノ協奏曲では目の前にグランドピアノの天板が見えましたが、それでもうるさいという事は無かったです。

指揮 : オスモ・ヴァンスカ ( Osmo Vanska)
ピアノ : ユホ・ポホヨネン ( Juho Pohjonen )
管弦楽: フィンランドラハティ交響楽団 ( Lahti SO )
  コンサート・マスター: ヤーッコ・クーシスト(Jaakko Kuusisto)
 総勢67名

 森と湖の国フィンランド。この国が誇る作曲家、シベリウス交響曲をたずさえて、指揮者、ヴァンスカとラハティ交響楽団がやってきます。2000年に オープンしたシベリウス・ホールを本拠地として、毎年秋には、シベリウス・フェスティバルを開催しています。シベリウス作品の録音では定評があり、多くの 賞を受賞。爽快でみずみずしいシベリウスを聴かせます。2回目の来日公演のときには、「音楽の友」による2003年ベスト・コンサートの第1位にランキング!日本の聴衆を興奮させました。(上記リンク先より)

 クラシック・ファンにはシベリウスの演奏で定評があり、オーディオファイルにはスウェーデンBISレーベルからの好録音かつ美しいジャケットのCDで有名ですよね。個人的にはシベリウスは古い録音しか持っていなかったのですが、最近よく菅野沖彦先生が「カレリア組曲」を試聴会で用いられていますので、私もすっかりヴァンスカ・ファンになってしまいました。
 ヴァンスカがこのフィンランドの一地方都市のオケに過ぎなかったラハティ響を世界有数のオケに育て上げたのは「ラハティの奇跡」と呼ばれているそうです。団員の一人、フルート奏者のコルホネン恵理子さんが今回のプログラムに「自然にやさしく 人間にやさしい フィンランド」というエッセイを書いておられますので、それを少し引用してみましょう。なお、太字は私の判断です。

『1991年私がラハティ響に入団した当時、盛んに話し合いが持たれ「海外遠征で日本までも行こう!新しいホールを作ろう!」と言う積極的な意見が出されていた。それが10年も経たない中に、この小さな町の小さなオーケストラはCDで多くの賞を獲得し、海外遠征も実現した。2000年にはオーケストラ事務局長キンベルクの多大の尽力により夢のコンサートホール”シベリウスホール”でのシベリウス音楽際を開催させたのだ。ラハティ響の音楽はよい雰囲気の仕事場から生まれ、団員の強い結束力と自然で丁寧な演奏から出来上がる。(中略)日頃強く感銘を受けていることは、どんな単純なフレーズでもお互いに良く聞き合いながら、注意深く演奏して行くラハティ響の真摯な姿である。嬉しいことにその音楽が聴衆の心に響き「手馴れた演奏ではなくとても新鮮だ」と好評を頂いている。オスモ・ヴァンスカは練習で、よく「そんな大げさに作らないで普通に演奏しなさい」と言われる。変に飾らず自然な演奏こそ美しいと言う事だ。』

 実際の演奏はまさにその通りで付け加える事も訂正する事も全くなし、中規模オケの理想的な姿を見た気がしました。もうこれで終わりにして良いくらいですが(^_^;)、蛇足気味ながらライブレポートをお送りします。

SETLIST:
1.コッコネン:  「風景」(室内管弦楽のための音楽)

 今回最初に演奏されるのはオーケストラの母国フィンランドの作曲家、コッコネンの作品でした。当初は「間奏曲」の予定でしたが都合により差し替えられたそうです。といってもどちらの曲も全然知らないんですけどね(^^ゞ。
 先ずはオケの弦パートの方が登場、ついで盛大な拍手の中ヴァンスカさんが黒の燕尾服でにこやかに登場されました。指揮台に立ちオケの方を向かれると、結構「フランシスコ・ザビエル」のヘア・スタイルでした(爆。
 殆ど弦楽器のみの構成のままで指揮棒が振り下ろされると、「風景」と言うどのかな題名とは裏腹に不協和音の多い不安を抱かせるような旋律が奏でられていきます。北国の厳しい風景を描いた曲なのでしょうか。その様な音楽でも弦の響きが非常に美しく耳障りな音が全く出てこないのに先ずは驚きました。私の目の前のチェロの響きは特に素晴らしくこれは良い!と最初から虜になってしまいましたね。ヴァンスカさんも笑みをたたえて余裕で振っておられます。先ずは肩慣らしといったところでしょうか。

2.グリーグ:    ピアノ協奏曲 イ短調

 作品16つづくグリーグのピアノ協奏曲は、ご存知人気の名曲。ノルウェイの風を感じてください。共演するピアニスト、ポホヨネンは、ただいま注目を浴びている北欧の若手ピアニスト。(上記リンク先より)

 一旦ヴァンスカさんが退場された後、グランドピアノがステージ正面最前列に運び込まれ、いよいよオケ全員が揃います。そして舞台左手より若い青年が前、ヴァンスカさんが後ろで再登場されました。この青年がポホヨネンです(フィンランド人の方々には失礼ながらいつも名前で笑わせてもらってます)。結構ひ弱そうで、手もそれ程大きくない青年でしたが、そのピアノ演奏には素直に感銘を受けました。どう感銘を受けたかが難しいのですが、傅先生がクレルのEvolutionシリーズで用いられた御言葉をお借りすると

「普通に凄い」

どこか突出したところがあるわけではないのですが、正確なタッチ、容貌からは想像できなかった男性らしい打鍵の強靱さ、決して感情に流されないけれども正確に曲の悲劇性を描ききる表現力、畏れ入りました。1981年生まれと言いますからまだ25歳ですから将来が楽しみです。
 この曲の冒頭のパッセージは良くドラマの悲劇的シーンを盛り上げる為に用いられますが、やはりそのようなところで聴くのと次元の違う表現力で始まり、オケも中規模とは思えないほどの雄大な表現力でぐいぐいと聴衆を引きつけていきます。ヴァンスカさんがピアノに隠れて見えないのが残念でしたが、徐々に熱が入り、体の動きが激しくなっていくのは判りました。曲が終わる間もなくそれはそれは凄い拍手!たとえシベリウスをやってくれなくても満足!といった感じでしたね。それにしてもこのホールは拍手も素晴らしい響きで是非ライブ録音して欲しいですねえ。

Encore ( Piano Solo )
3.グリーグ: 叙情小品集第3集作品43より

第6番「春に寄す

 ポホヨネンさんがアンコールに応えてソロで演奏されました。美しく優しい春に寄すという印象そのままのほのぼのとした演奏でした。ここで一旦休憩に入ります。

- Intermission -

4.シベリウス交響曲第2番 ニ長調 作品43

 そして最後は、シベリウス交響曲第2番。シベリウス交響曲の中では最も多く演奏され、目を閉じると透明で美しい北欧の風景が浮かんでくるような曲です。
 音楽監督としてオスモ・ヴァンスカがラハティ交響楽団と日本ツアーをするのは、今回が最後。忘れえぬ公演となることでしょう。

 さて、トリは今回一番のお目当てのシベリウス2番です。先日漫談レビューしましたように、シベリウス交響曲の中でも最もポピュラーなナンバーで私のような初心者には絶好のプログラムと言えましょう。レビューで「とても美音系だった」と書いたそのままに第一楽章の弱音部が聴こえだすと、もう心が微振動してましたね。美音形だと感じたのは巷間語られているような「フィンランド独立の気概」といった余計な先入観を排して

変に飾らず自然な演奏こそ美しい

と言う事をまさしく体現しておられるからなのでしょう。第3-4楽章間のアタッカも猛々しくはならずとても美しいブリッジでした。本当にCDの演奏そのまま、正確無比で素晴らしい演奏でしたが、さすがにライブと言う事もあって、盛り上げどころの第3楽章のスケルツォなどはCDより更に鮮烈な高揚感を表現しておられるように思いました。
 また「1-4楽章全体が壮大なクレッシェンドである」と言われている通り、ヴァンスカさんの指揮も徐々にその激しさを増し、コーダに近づくにつれ、指揮台から落ちないかと心配になるほど激しさを増していきました。クライマックスでバイオリンの弦が一斉に上下するところなどライブでしか判らない面白さもありましたが、螺旋状に低音弦~高音弦が高揚していき弦音の洪水となる中、最後の最後に鮮烈にトロンボーンオーボエ、トランペット等が加入して行くあたりのカタルシス、最高でした。終了直後から、何度も書いて陳腐な表現になってしまいますが

万雷の拍手鳴り止まず。

私のような初心者が言うのもなんですが、クラシックのコンサートでこれほど高揚したお客さんを観るのは初めてではないかと思いましたし、ロック、ジャズのコンサートでも滅多にお目にかかれない高揚感がホール全体を包んでいました。

 唯一残念だったのは二つ隣の小さな子が退屈してビニル袋をガサゴソしてたこと。ほんの小さな音でも弱音部になるととても気になりますね。お爺さんがお孫さんを連れて来られていたようですが、長時間じっとしてる方が無理な年頃の子ですから正直なところ連れてきて欲し くなかったですね。

Encore
5.シベリウス:「花のワルツ
6.シベリウス:「フィンランディア

 アンコールの一曲目は観客をクールダウンさせるかのような「花のワルツ」、そしてサブライズは最後に待ってました。低音弦の爪弾きが始まった途端、ん?こ、これはもしかして、、、そう、シベリウスと言えばフィンランディアフィンランドと言って思い浮かぶ曲は?と言えばフィンランディア、そうあのフィンランディアだったのです。普通ならセットリストの目玉になりそうなこの曲をアンコールの最後に持ってきてくれるとは

さすがヴァンスカ!、さすがラハティ響!\(^o^)/

ステサンの川崎さんではありませんが、もう最後はウルウルでした!メンバー全員が演奏の素晴らしさを讃えあって三々五々退場し、ついに舞台上に誰もいなくなって帰りかけるお客さんも多い中、それでも万雷の拍手は鳴り止まず、とうとうヴァンスカさんがもう一度舞台に戻ってこられ、手を合わせて深々とお辞儀をされたのがとても印象的でした。

 本当にこれでヴァンスカさんが音楽監督としてラハティ響を率いて来日するのは最後なのだとしたらまことに残念です。ファンになるのが遅すぎた!、そう思わせるほど素晴らしいコンサートでした。彼は大植英次氏の後任としてミネソタ音楽監督に就任され、ベートーベンを積極的に録音しておられるようです。またそのメンバーでこのホールへ帰って来られる事を期待したいですね。また、家内と話していたのですが、ラハティ市のシベリウスホール、憧れのフィンランド旅行が叶ったら是非行って聴いてみたいものです。