ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ショパン / レシェク・クワコフスキ・トリオ

 最近はまっているジャズのアルバムの中から今日はこの一枚をご紹介します。先日ご紹介したポーランド・ジャズの逸材レシェク・クワコフスキが母国の偉大な音楽家ショパンに挑戦したライブ・アルバムです。
ショパン(レシェク・クワコフスキ・トリオ)
ショパン(レシェク・クワコフスキ・トリオ)


Leszek Kulakowski Trio
and Slupsk Chamber Oechstra
CHOPIN And Other Songs

Leszek Kulakowski - piano
Andrzej Cudzich - bass
Adam Czerwinski - drums
with Slupsk Chamber Oechstra

1: Mazurek a-moll Op.7, Nr. 2
2: Preludium c-moll Op. 28
3: Nokturn cis-moll
4: Mazurek a-moll Op17. Nr. 4
5: Ewencja
6: Walczyk Decadencki
7: Free Steps

Recorded Live November 17 1994 at the Slupsk theatre

ポーランド・ジャズ評論家オラシオさんのレビューはこちら

 Kazimierz Rozbickiという方の書かれたライナーノートによりますと、レシェク・クワコフスキはPolonia Recordsからファースト・アルバムを出した後僅か2ヶ月の間に作曲、オーケストラ用のスコア作成、企画、会場の確保(財政面を含めて)等全てを行い、このライブにこぎつけたとのこと。前回はその演奏にびっくりしましたが、今回は行動力と作曲の才能に驚嘆してしまいました。もちろん、その結果としてのこのアルバムの出来栄えにも。

 1-4はショパンマズルカ前奏曲夜想曲を演奏しています。トリオ演奏自体は予想通り、ショパンのオリジナルをジャズ風にブルージーにアレンジして弾きまくると言うもの。ショパン流の華麗なメロディを高速で弾きこなすレシェク、この頃から既に素晴らしいタッチを披露していたんですね。オラシオさんも書いておられますが、サポートするベースもゴリゴリした力強いタッチでピアノを煽っています。惜しむらくは録音が今ひとつで弦がブンブンしなるような迫真のタッチが出ていない事。まあ、あの当時のポーランドの国力で、ライブ録音という事で仕方ないのかもしれません。

 興味深いのは室内響のアンサンブル。いわゆる本場アメリカのビッグ・ジャズ・バンド風のスイング感のあるアレンジとは趣が異なり、さりとてクラシックのアンサンブルでもありません。敢えて言うと、現代音楽風に不協和音の多い不安定なハーモニーを盛り込んだ印象です。それでいて、不思議とトリオ演奏に違和感なく絡んできて、最後は聴衆のやんやの喝采
 ライナーノートによると彼はもともと音楽学校でヴァイオリンを修め、卒業後はドイツに渡りハンブルグモーツァルト・オーケストラにも長く所属していたとのことで、作編曲の素養はその頃に磨かれたものと思われます。
 
 というわけで、典型的なピアノ・トリオに室内管弦楽団と言う構成、最初は少し違和感がありましたが、4のマズルカイ短調17-4のあたりまで来るとその盛り上がりは本当に素晴らしい。このアルバムの白眉でしょう。ショパンの曲の中でもマズルカポーランドの民俗音楽だけに国民性への深い理解が必要であり、その演奏はとりわけ難しいとされていますが、そこはポーランド人の血のなせる業か、ジャズに編曲した上でなおかつ会場を興奮の坩堝に巻き込む力技、畏れ入りました!としか言いようがありません。

 このマズルカイ短調17-4と言う曲、あの思索するピアニスト、或いはピアノを弾く哲学者、鬼才ヴァレリー・アシャナシエフが自身のマズルカ集でいの一番に取り上げているんですね。まあ言ってみりゃマズルカというのはポーランド民謡な訳で、それをここまでアウフヘーベンするか(爆、と言うくらい深い思索を以ってアルバムの冒頭に持ってきた17-4は静謐で厳かな雰囲気に満ち満ちており、それでいてどこか物悲しい郷愁を誘う旋律が実に美しい傑作です。おそらくショパンマズルカの中でも傑出した一品なのでしょう。
 それをレシェクがどう料理しているか、クラシックファンにも興味深い演奏だと思いますので是非聴いてみてください。

鬼才アファナシエフの軌跡8 ショパン:マズルカ集
鬼才アファナシエフの軌跡8 ショパン:マズルカ集

 と、ここで終わってしまえばまあ面白い企画盤という事で片付けられてしまいそうですが、実は、4の興奮の醒めやらぬまま次々にたたみ掛けていく彼のオリジナル曲がこれまた壮絶に凄いんです。単調なモノトーンのリズムを芯にして自在に音が飛び交うエヴェンシア」、ワルツのリズムが古き良き時代のヨーロッパ映画を思わせる闘う気力も失せて」、そして大団円を迎えるに相応しい大作フリー・ステップス」、この4から7の流れがこのアルバムを傑作たらしめていると思うのは私だけでしょうか!?

→と、オラシオさんに振ってみたりする(^_^;)、と言うのは冗談ですけど、6の曲の雰囲気と邦題が合わない気がするんですけどどうなんでしょうねえ。あてずっぽですが、原題は「デカダン・ワルツ」のような意味のポーランド語かなとか思うのですが?

 唯一残念なのは日本語版ライナーノート。ガッツプロダクションさんにはこのような素晴らしいアルバムを日本に紹介してくださって感謝しますが、あの中学生の夏休みの感想文のできそこないみたいな文章はないでしょう、とは申し上げたい。今からでもオラシオさんのレビューに差し替えてください(^_^;)。

まあ、なんにせよ、一聴の価値はあります。アマゾンにまだ2,3枚在庫があるようですので早い者勝ちですよ、是非どうぞ(^o^)/