ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Aerial / Kate Bush

Aerial
Aerial

 なんと12年ぶりに天の岩戸から出て来られたKate Bush様の新作 Aerial です。女神様降臨だのなんだのと散々煽っておきながら放置プレーかよ(冷汗、という声が聞こえてきそうですが、先日やっと輸入盤が届いたので毎日ヘビーローテーションで聴きまくっております。

 早速英国チャートでは3位まで上昇したとか、根強い人気はさすがです。「難解」という評価もあるようですが、正直なところ

かつてプログレッシブ・ロックなるものの提示してきた巧妙なまでの難解さに比すれば一体この作品が何ほどの晦渋を包含しているというのか(高村薫風)

と言わせていただきましょう。前作Red Shoesが比較的ポップな作品であったことで余計にそう感じるのかもしれませんが、以前には母性ということを強く感じさせるコンセプト・アルバム的な作品も作った方ですしね。
 でもって今回は

母なる自然への賛歌、或いは回帰

といったあたりがテーマです。特にDisc 2には鳥の声が多くサンプリングされており、全体を通してアルバム名のAerialを強く意識したコンセプト・アルバム的に統一されています。ちなみにジャケット写真で水平線に影を落とす島々のように見えるのは、Blackbirdの声紋だそうです。

Disc 1: A Sea of Honey
1: King of the Mountain
2: Pi(π)
3: Bertie
4: Mrs. Bartolozzi
5: How to be Invisible
6: Joanni
7: A Coral Room

 一枚目は前作にやや近いKate風ポップスとでもいいましょうか。Elvis Presley市民ケーンを皮肉った1(お山の大将という言葉を直訳したみたいですね)が既にシングルで先行発売されています。ちょっとディペッシュ・モード風の4なども面白いです。7はDisc 2へのブリッジを意識したのか、とても完成度の高い作品となっています。

Disc 2: A Sky of Honey
1: Prelude
2: Prologue
3: An Architect's Dream
4: Painter's Link
5: Sunset
6: Aerial Tal
7: Somewhere In Between
8: Nocturn
9: Aerial

 先ほど述べたように鳥の声のサンプリングを駆使して組曲的に全体が統一されています。プログレ・ファンにはとってはこちらがKateからの素晴らしいプレゼントと感じられることと思います。
 音質についても、輸入盤で聴いた限り十分オーディオの試聴に耐えうるものです。Kateの声は相変わらず高音まで伸びていて心地よいですし、バックの演奏も完成度が高く、録音の方もベースの量感を意識して出してはいますがあくまでも鳥と大空というコンセプトを大事にするべくナチュラルに録られているように感じます。
 
 メンバーは気心の知れた人たちで固めてあるようです。Kate Bush Newsではミック・カーンが参加したらしいと書いてあったのですが、アルバムのクレジットにはありませんでした。(まことさん、残念!)客演といえるビッグ・ネームはゲイリー・ブルッカー(この人はもうKateに随分付き合っていますが)、ロル・クリームくらいでしょうか。
 是非このメンバーで来日コンサートをしてほしいものです。残念ながらKateの容姿の衰えは隠しようもありませんが、逆に精神的な面では過去の精神病すれすれのエクセントリックさが影を潜めて大変充実しているように感じられます。きっと素晴らしいコンサートになると思うのですが。

 ということで、2枚組みの大作ですが、彼女の円熟ぶりと精神的な充実度を堪能できます。過去にとんでもない作品を産み出してきた人ですからあえて傑作という言葉は使わないでおきましょう。秀作と思います。