ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

In The Shadow Of No Towers

 昨日は9.11でした。それにあわせてアート・シュピーゲルマン氏の本が出版されました。

消えたタワーの影のなかで
消えたタワーの影のなかで

 氏は漫画家で、父親から聞いた話を元にアウシュビッツの悲劇を漫画化した「マウス」でピュリッツァー賞をとりました。氏のことを知ったのは柴田元幸氏のナイン・インタビューズという本でした。CD付属で彼の肉声を聞くことも出来ます。

 もちろん正義感と批判精神にあふれた骨太のかたではありますが、現在の政治を単純に鸚鵡返しに批判するような手法はとらず、自分の中で十分醗酵させてから歴史的評価に耐えうると判断した上で発表するという慎重な姿勢もちゃんと持っておられます。そのような方が自分の居住区のすぐ近くで起きたあの9.11をどう表現するのか、2年目にしてようやく出版されたこの本に大変興味があり買って見ました。

 題名からしてシニカルですね。「存在しない塔の影」に今なお彼が如何におびえているか。ブッシュ政権イスラムの両方から攻撃を受けているようだ、そうです。絵柄が如何にもアメリカ風で日本アニメの精緻な筆使いに慣れた目から見るとやや見にくい面はありますが、ユダヤ人である彼の思索の深さを読み取るのはそれほど難しくはありません。もちろんアメリカンコミックに造詣の深い小野耕世氏の素晴らしい訳があってのことですが。

 

ナイン・インタビューズ
ナイン・インタビューズ