何のために今まで そして今からも
生きているのか わかったような気がします
今 私は 旅立ちます
一つの空に向かって 飛び始めるのです
(「飛びます」より 山崎ハコ)
私の持っているLPはそう大した数ではありませんが、かといって全てを把握しているわけでもなく、中にはどうしてこのアルバムを持っていたことを忘れていたんだろうと愕然とする事があります。一週間前に山崎ハコさんの30周年コンサートがあると偶然新聞でみかけた時、久しぶりに頭を殴られたような衝撃を受けました。そう、あの名曲「飛びます」「サヨナラの鐘」をもうかれこれ20年以上も聴いてなかったのです。早速ライブラリを探してみたら、ありました。幸いLPの保存状態はよく早速レイカのクリーニングキットでぴかぴかにしてから聴いてみて、感激を新たにしました。
山崎ハコというと、どうしても
「暗い」「フォーク演歌」
というイメージがついてまわり、実際それ故に彼女はその後30年間の不遇をかこつことになります。確かに、そういう歌が多いことは否定できません。でも食わず嫌いではなく、無心に上記2曲だけでも聴いてみれば、その日本語の感覚の天才的な鋭さ、独特の短調と長調の間を揺らぐメロディラインの作り方、そしてハイトーンボイスを時には振り絞って歌う歌唱力、何れも当時のシンガーソングライターの中では卓越したものを持っていたことが分かる筈です。私は実は彼女と同い年なのですが、「飛びます」を聴いた時とても同い年の女性が書ける歌ではないな、と舌を巻いた記憶があります。
じゃあ何故その後忘れ去ってしまっていたのかというと自分の興味が他ジャンルに移ったという事もあるでしょうし、段々と彼女が第一線から遠ざかってしまったということもあるでしょう。
その30年の空白を埋めるべく、昨日13日盆帰りから慌しく帰ってきてその足でコンサートに駆けつけました。
山崎ハコ・コンサート 「ハコの軌跡」
Date: Aug. 13th, 2005 17:00-19:20
山崎 ハコ (Vo, g)安田 裕美 (g)
Setlist
01: 望郷
02: 白い花
MC-1
03: 水割り
MC-2
04: ヨコハマ・ホンキートンク・ブルース
MC-3
05: ヨコハマ
MC-4
06: 心だけ愛して(映画「地獄」のテーマ)
MC-5
07: 海の子供(オ・インファンテ)
MC-6
08: 百万本の薔薇(山崎ハコ版)
09: 私が生まれた日
MC-7
10: 歩いて
MC-8
11: 気分を変えて
MC-9
12: サヨナラの鐘
MC-10
13: 飛びます
Encore
14: What a wonderful world
15: 会えない時でも
including MC~Medley:Theme from New Cinema Paradise~心模様~ダンスはうまく踊れない~MC
神戸風月堂というのは神戸元町にある菓子店の老舗で、その地下にホールがあります。よく落語の寄席などが催されており、地域の芸術文化振興に寄与しています。大体100-150人程度のキャパだと思いますが、開演前にはほぼ満員となりました。
定刻に山崎ハコさんとご主人の安田裕美さんが登場。ハコさんが白、安田さんが黒と対照的な服の色です。ハコさんは、長髪で不安な目を隠そうとするかのような痩せぎすな少女だった30年前と同じような華奢な体でした。でも長髪は綺麗にパーマがかかっており、顔にも当然ながら年齢を重ねた落ち着きが見られます。でも口紅は普段は滅多につけないそうです。
安田裕美さんは長髪ヒゲ面に黒のサングラスという、あの時代からそのまま抜け出てきたようないでたち。実はこの人、知る人ぞ知るギタリストにして小椋佳、井上陽水等々のアレンジャーとして活躍してこられた方です。昨日の記事でヒントにしたのはこの方でした。
客席の雰囲気もまだ硬く、静まり返った中二人は腰掛け演奏が始まりました。「望郷」です。MC-1で
今日はネットアンケートで選ばれたベスト20を演奏することにしたのでまずはデビューアルバム「飛・び・ま・す」の一曲目から始めることにしました
と選曲の理由を語られました。「白い花」も第2作に入っていた彼女の代表曲の一つ。
ベスト20だと本当に暗い曲ばっかりだね
とのMCに会場から笑いが漏れます。
彼女の友達の一人、原田芳雄さんの名曲「ヨコハマ・ホンキートンク・ブルース」をハコ流に熱唱されたあと、横浜に出てきた頃の思い出を語るハコさん。次の曲も「ヨコハマ」でした。彼女は九州日田の田舎育ちで、ヨコハマに出るまではテレビで映画が観られることを知らなかったとか。それで映画の主題歌を依頼された時は本当に嬉しかったそうです。でも、
その題名が地獄なんですよね(会場爆笑)。でも嬉しかった、画面に私の名前が出ると思うとね。
ということで次は神代辰巳監督の名作「地獄」のテーマ曲「心だけ愛して」でした。もうパワー全開で声を振り絞って歌う彼女に最後まで声が持つのかどうか心配にさえなりました。
次の曲「海の子供」はポルトガルの歌にハコさん自身が歌詞をつけたもの。ファドの持つ哀愁を帯びた曲調にハコさんの歌は良く合います。ついでMC-6は友達渡辺えり子さんの話になり、彼女が海外の劇団を訪問した時にみかけた絵が「百万本の薔薇」のモデルとなったビロスマンという画家の作品だったという話になりました。ハコさんはこの歌の歌詞を熱心に研究し、加藤版(これも正確な訳だそうです)と違った「百万本の薔薇」を作り上げました。渡辺さんも絶賛したというこの歌はまるで一人芝居を見るようで中盤の白眉でした。そのままこれも初期の名作「私が生まれた日」に続いていきました。ルーツという言葉が頻出するのも当時の世相でしょうかね。ちなみにこの2曲は自宅で作成した打ち込みと安田さんのギターをバックに歌われました。
MC-7ではしみじみと次曲の「歩いて」について語られました。
5年目でこんな曲を書いちゃって、でもこの曲があったからこそあとの25年歌を歌い続けてこられたんです。
その言葉通り歌を歌うことについての強い思いを感じさせる曲でした。
次いで一転してアップテンポの「気分を変えて」。これもデビューアルバムに入っていた作品で彼女の代表曲に一つですから会場から手拍子が起こります。ハコさんもノリも最高潮に。
MC-9ではギターのチューニングの後このギターの話に。実は昨日の明石天文台でのライブでデビューした新品だそうです。
でもこんな曲(気分を変えて)やっちゃったりしてもう傷だらけ、かわいそうにね、でもまたこれから30年でも付き合ってもらえると思います。
と歌うことへの強い思いを述べられました。ちなみにギターのヘッドにGという頭文字が見えました。ギブソンかギルドかな。そして最もリクエストの多い名曲、これもデビューアルバムから「サヨナラの鐘」が始まると会場は一転して水を打ったように静かに。
いつだったか笑って 二人別れていった
という2番の歌詞が始まる頃には胸がジーンとしてきました。続くMC-10では自らの辛い時期についてしみじみと話されました。ライブハウス回りはいつも一人でマネージャーと間違われたこと、神戸だけはボランティアの方がいつも迎えに来てくださったこと、10年前事務所が不払いで家主から追い出され、その時もまだ新婚だった渡辺えり子さんが快く泊めてくださったり、原田芳雄さんが自分の留守中は好きに使えといってくださったりした思い出などなど。両親が亡くなられたあとに自分のスクラップを見つけてああやっぱり応援してくれていたんだとありがたく思ったこと、歌い続けてこられて良かったと改めて思ったことなど。
そのような万感の思いをこめた最後の曲はやはり「飛びます」。彼女の歌声をじっと目を閉じて聴いていると、17歳の多感な少女が書き上げた驚くべき歌詞が当時そのままの声で頭に直接響いてきます。そしてふと目を開けると目をきっと見開いて虚空に向かって絶唱する彼女の姿が。思わず熱いものがこみ上げてきました。久しぶりの体験でした。
この思いのためなら どんなに苦しいこともきっとやれるような そんな気がします
そうです 歌いたくなくても 言葉に出したくなくても
きっと歌えるのです 心の中で誰かが歌ってるから
今私は 旅立ちます
自分の心にむかって 飛び始めるのです
終わっても当然ながら万雷の拍手は鳴り止みません。アンコールでは黒の服に着替えて再登場。ご主人にできるか確かめたら多分ーーということで始まったスタンダード曲「What a wonderful world」、ハコさん流に言うと「この世界も捨てたもんじゃない」となります。
そして最後は「会えない時でも」を弾き語りながらトークと絶妙なご主人との掛け合いが展開されました。ご主人がギターを弾いておられる生命保険会社のCM曲ニュー・シネマ・パラダイスのテーマの一節をさりげなく弾いたり、陽水の「心模様」の出だしを弾いてみたらハコさんが歌いだしたり、石川セリさんの話しになると「ダンスはうまく踊れない」になったり、楽しいセッションでした。またMCに戻って今後の予定などを述べられたあと、最後は歌詞でお客さんへの感謝の辞を述べられ、拍手の鳴り止まない中エンディングを迎えました。
今回の神戸のコンサートは自分にとっては運命的なものを感じましたが、開催できたのは昔からのボランティアの方々の並々ならぬ熱意と努力があってのことだったそうです。本当にご苦労様でした。おまけにハコさん、スタッフの方々のご好意により持参したLPにもサイン(冒頭写真)していただき感無量でした。
今日は長文になりました、ただ自分のために書いたようなもので、あまり推敲も整理もしないで置こうと思います。あしからずご了承ください。