ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

いまのきもち

 中島みゆきさんが今の気持ちで「翻楽リーフレットより)」したセルフカバー集です。もう既にあちこちで感想を見かけますが、私も遅ればせながら。まず「CDケースが厚い」のに驚きます。カラーで紙質も良い豪華仕様リーフレットが一冊と白黒の英訳版リーフレットが一冊。どうりで厚いはず。こういう2冊組みというのは海外作品の日本盤でよくやる手ですが、それを逆手に取って遊んでいる感じ。こういうのってアナログ時代に「予感」「臨月」などで輸入盤を気取ってシュリンクヴィニール包装にして売り出した洒落っ気を思い出しますね。ちなみに写真は相変わらずタムジン。彼以外に撮らせるつもりは無いようですね、長い付き合いだなあ。

いまのきもち
中島みゆき 瀬尾一三

おすすめ平均 
みゆき節は健在
土用波
過去の名曲を今のアレンジで、今の歌唱で楽しめそう!
いったん立ち止まり、新たな旅立ちへと送り出すアルバム?

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まず曲目をおさらいしておきます。曲名、収録アルバム名、初出年を示します。
01: あぶな坂 「私の声が聞こえますか」 1976
02: わかれうた 「愛していると云ってくれ」 1977*
03: 怜子 「愛していると云ってくれ」 1978
04: 信じ難いもの 「親愛なるものへ」 1979
05: この空を飛べたら 「おかえりなさい」 1979**
06: あわせ鏡 「臨月」 1981
07: 歌姫 「寒水魚」 1982
08: 傾斜 「寒水魚」 1982
09: 横恋慕 (Single) 1982
10: この世に二人だけ 「予感」 1983
11: はじめまして 「はじめまして」 1984
12: どこにいても (Single c/w 見返り美人)1986
13: 土用波 「中島みゆき」 1988
*:シングル初出年
**:ただし加藤登紀子のシングルは1978年
 デビューアルバム「私の声--」から自らの名前を題名にした「中島みゆき」までより年代順に選曲されています。ちなみに1989年に最初の夜会が開かれていますから夜会前夜までの総括的構成ですね。アルバムによっては採用されていないものもある一方、Mao.Kさんにコメントいただいたように「愛していると云ってくれ」「寒水魚」からは2曲入っています。02,07が彼女の代表曲的な選曲とすれば03,08に彼女のこだわりがあるのかもしれません。

 先ず感じたのは、手前味噌になりますが出来るだけ良いオーディオシステムで聴きたいという事。

瀬尾さんの作った揺りかごの上で自分の子供(歌詞)をしみじみと眺め慈しみながら歌っている

という印象が強く、このアルバムは「中島みゆき」の作品ではなく「中島みゆき瀬尾一三」の作品であるということを感じました。
 そこで問題になるのが瀬尾さんの編曲。彼の編曲は良く言えば「オーソドックス」悪く言えば「ありきたり」というところがあります。先日の吉田拓郎のコンサートなど、実演で聴く瀬尾さんのオーケストレーションの素晴らしさは定評があり、だからこそ多くのアーチストに支持されているわけですが、現代の一般聴取形態がミニコンポ、PC用のSP、あるいは携帯器等となっている状況では、せっかくのバック演奏がカラオケ程度にしか聴こえてこないきらいがあると思います。私もメインシステム、サブシステム、カーオーディオ、PCで聴いてみましたが順番に落差が激しく、愕然としてしまいました。PC用SPなどになるとストリングスの美しい余韻、あるいはベースの深みなど殆ど伝わってきません。ただでさえみゆきさんの歌は歌詞にこだわる人が多いので、折角の味わい深い演奏が無視されやしないかと他人事ながらとても心配になります。

 さて前フリが長くなりましたがみゆきさんのヴォーカル、原曲をアナログで聞きながら対比してみると、もう自由自在に歌いこなしている感じがはっきりと分かります。さらりと歌っている、昔の辛そうな印象が影を潜め楽しく歌っているというような感想(中島みゆき研究所Niftyフォーラム掲示板等)を見かけますが、まさにそのとおりで、実力目一杯のところで勝負するのではなく、肩の力を抜いた上で一つ一つ技巧を凝らそうという印象を受けます。夜会で磨いたテクニックなのでしょうね、きっと。
 みゆきさんの場合、個々のファンが自分の好きな曲に深い思い入れを持っている度合いが強いと思います。それを敢えて違ったアレンジで聴かせる訳ですから、ああしてほしかった、こうしてほしかったという反応は当然あるでしょう。それを見越した上でこうしたアルバムを作ったわけですからAmazonのレビューにあるように

いったん立ち止まり、新たな旅立ちへと送り出すアルバム?

と思いますね。コンサートのチケット、取れるといいんだけどなあ、今回は神戸国際会館が無いのでちょっと難しそう。

 全曲各論的に検討していくと限りが無いので、前回の記事で思い入れが深いと書いた数曲のみ感想を。
01: あぶな坂
 以前デビューアルバムの編曲は、とてもあちらでプログレが全盛だった70年代のものとは思えないほど素朴と書いた記憶がありますが、あれはあれで良かったのかな、とも思ってしまいますね。それにしても久しぶりに原曲を聴くと声が若いですね。今のみゆきさんも音域は非常に広く高音も出せますが、あの頃の声質とは別物なので新鮮な驚きがありました。
03: 怜子
 「愛していると云ってくれ」は冒頭の朗読曲「元気ですか」から「れーーーいーーーこーー」のアカペラ絶唱に続きその後バンド演奏が滑り込んでくる構成がすばらしく、この2曲がセットと云うイメージを抱いていましたから、歌姫のイントロを髣髴とさせる穏やかなストリングスが流れてきた時は何の曲かなと思いました。歌い方も優しくいつくしむ感じで、歌の性格を少し変えてしまった印象がありますね。トラックバックさせていただいたakiraさんが書かれているように姉さんぶった女の内心の哀しみが無くなって慈母が歌い込んでいるよう。みゆきさんがそういう女を、可愛いと思って眺められる年齢に達したと言うことなのでしょう。
08: 傾斜
 原曲では後藤次利のうねるようなベースをイントロにヘビーな印象で始まりますが、今回はおとなしめのギターのリフで始まります。バスドラが坂を登っていく老女の心拍を刻むかのようなリフをバックで繰り返していますがPCで聴いても殆ど聞き取れませんね。後半の盛り上げ方はまさに瀬尾風。
10: この世に二人だけ
 個人的には最も思いいれの深い曲のひとつで、みゆきさん唯一のライブアルバム歌暦で「この曲を今回は最後に歌いたかったんです」とMCされたときには涙してしまいました。今回は途中からえらく演歌調になってますね。以前夜会で「わかれうた」などを演歌調で披露された事がありましたがそのノリなんでしょうか。
 また、原曲ではJ.コンセプションがとてもいいサックスソロを聴かせているだけに今回も入れてほしかったと思うのは贅沢でしょうかね。
 そして今回英訳歌詞を見てはじめて知った事があります。ページをめくったのは「」で無く「」だったんですね。

 リーフレットの最後に---、やはりありました。

DAD 川上源一

合掌。