ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

P.I. Tcahikovsky / Piano Trio in A Minor Op.50

Tchaikoop50_2
  アメリカ西海岸のオーディオファイルjazzaudiofanさんは以前から日本の優れたジャズCDを世界に紹介するオンラインショップEastwind Importを運営しておられるのですが、最近は日本ばかりではなく、アメリカの独立系ジャズレーベルやJVC Americaが製作した高音質XRCD、更にはクラシックの高音質レーベルも扱われておられます。そのクラシックレーベルの一つにカナダのMirrored Nature Recordsがあります。

Music Made Not Manufactured

をモットーに、録音の機会に恵まれない有望な若手演奏者に機会を与え高音質のSACD、CDをリリースしているそうです。今回有り難くもjazzaudiofanさんからそのアルバムを頂きましたので紹介してみたいと思います。

Trio for Piano, Violin & Violoncello
In A Minor Op.50
(P.I.Tchaikovsky)   
 
I. Pezzo Elegiaco: Moderato assai – Allegro giusto
II. (A) Tema Con Variazioni
(B) Variazione Finale e coda: Allegretto risoluto e con fuoco   
                                               Andante con moto - Lugubre

Alexander Stark - Violon
Bella Shteinbouk - Piano
Nata Belkin - Cello

  チャイコフスキーについてはそのうち挑戦しようとは思っていたのですが、いまだに幾つかの有名な交響曲バレエ音楽程度の知識しか無いので、ライナーノーツを参考にしてこのピアノ三重奏曲の概要を紹介しましょう。

 「偉大な芸術家の思い出に」という通称で知られ、1881年に亡くなった偉大なピアニストであった旧友ニコライ・ルビンシュタインへの追悼のために同年から1882年にかけて書かれた曲とのことです。そのため、全般的に悲痛な調子が支配的となっています。

 2楽章からなりますが、第一楽章は伝統的なソナタ形式で書かれており、美しいチェロ演奏で始まり、最後は葬送行進曲となります。

 第二楽章は、従来の形式を打破した非常に変則的な展開となっています。ピアノ独奏から始まり様々な変奏を経て壮大なコーダで終わりますが、その50分近い演奏時間にもかかわらず、息を飲むような抒情性とチャイコフスキーの知性、感性の深さを感じさせる名曲で、とても人気が高いそうです。

 ピアノに高度な演奏技巧が要求され、ピアノを用いるあらゆるチャイコフスキー作品のなかでも屈指の難曲であるそうですが、Bella Steinboukのピアノ演奏はよどみなく展開していくため、その難しさを微塵も感じさせません。

 ちなみにBellaはベラルーシ出身、ヴァイオリンのAlexander Starkはリトアニア出身、チェロのNata Belkinはロシア出身とロシア系の三名で固められたトリオはチャイコフスキー演奏には最適と思われます。
 第一楽章の冒頭から一貫して滑らかで美しいNataのチェロの音色に、ただ一人の男性であるAlexanderのヴァイオリンの美しくもマニッシュな力強い弦が絡む演奏は、荘厳かつ悲痛な曲調でありながら際立った美しさを持っており、無名の若手のトリオとは言え、一流の演奏ではないかと思います。

 さて「高音質レーベル」という点がオーディオファイルには気にかかるところだと思いますが、SACD層を聴いた印象では奇を衒ったところや大上段に構えたところの無い、きわめてナチュラルな録音だと思いました。ライナーノートに「Recording Philosophy」が書いてありますので要約しますと、

「・ 有能な素質と感性を持った演奏者にあたかもマイクロフォンが観客であるかのように演奏してもらいます。演奏には音楽の有機的な流れと演奏者間の対話を最重要視します。

・ レコーディングの過程は可能な限りシンプルかつ短くしています。ライブ演奏のバイタリティ、ヒューマニティ、マジック、そしてソウルを味わっていただくために可能な限りのbest avairable equipmentを使用しています。」

とのことです。recording chainを可能な限りシンプルかつ短くしてあるという効果が表れているのでしょう、天然の湧水のように透明感溢れる清清しい美音が澱みなく滾々と湧き出てきます。その感触はまるでAyreのアンプで聴いているような錯覚を覚えるほどです。そう言えばAyreのモットーも確か「Straight Wire With Gain」でしたね。

 というわけでjazzaudiofanさんの見識と審美眼の確かさを再認識させていただきました。どうもありがとうございました。他にもこのトリオでのベートーベン等いろいろなアルバムがありますので興味のある方は上記のEastwind Importで検索してみてください。