ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

80年代ロックって何だったんだろう?

Thriller
 70年代ロックの記事の最後に「80年代ロックは分からんのでレココレにお任せ」なんて書きましたが、やっぱり気になるもので、あれからビルボードの年間チャート集、ロック辞典、80年代特集 本等々の資料を引っ張り出してきて色々と調べています。大体、80年代を代表するアルバムを80-90くらいリストアップしてみましたが、個人的には80年代前半は意外にフォローできてたなあと思う反面、やはり全体的に見ると80年代のミュージックシーンは、自分が最も熱中していた70年代までとガラッと様相が変わってしまっていた事にも気付きます。

 正直言って「これはロックであれはロックでない」という自分なりの考えが全く通用しなくなっていますし、80年代後半に至っては、これはベスト10に入るかな、というロックアルバムを挙げる事にさえ困難を感じる始末でした。そこでベスト10記事を書く前に80年代を俯瞰してみて感じた事を列挙してみます。ご意見ご批判大歓迎ですので、遠慮無く突っ込んでください。

1:ロックの商業化
 70年代後半あたり、特にフリートウッド・マックのアルバムが驚異的セールスを叩きだした頃からの流れで、ロックが最も売れ線の音楽となっていきました。あらゆるジャンルの音楽を凌ぐ巨大産業となってレコード会社に莫大な富をもたらすようになってきたわけです。当然どのレコード会社も競って売れ線の音楽を提供してくれるアーチス トを発掘してアルバムを製作するようになります。その代表格がフォリナージャーニーTOTOと言った所で、よく言えば良質の演奏、悪く言えば毒にも薬にもならない耳 あたりのいい音楽が主流になっていきました。その明朗快活売れ線音楽のピークがボン・ジョヴィあたりかと思います。

 「産業ロック」という言葉は渋谷陽一氏が批判の意味を込めて名づけた、というのが定説ですが、アメリカにもcorporate rockなる言葉が存在した、という説もあります。まあ由来はともかく揶揄の意味が込められていた事は確かですが、決して悪い面ばかりだったわけではありません。例えばロック的売れ線アルバム製作手法の確立は、スタジオワークを知り尽くした敏腕プロデューサーと新しい才能が組めばとんでもない傑作が産まれるという結果ももたらしました。例えば次のような組み合わせが代表格でしょう。

クインシー・ジョーンズ x マイケル・ジャクソン=「The Thriller」
ナイル・ロジャーズ x マドンナ=「Like A Virgin」
ティーブ・リリーホワイト&ダニエル・ラノア x U2 = 「The Joshua Tree」

2:ジャンル境界の不鮮明化
 ロックと言えば不良音楽、という固定概念はビートルズの社会的認知という儀式を経てはるか昔話となり、更にはボブ・ディランがフォークギターをエレキギターに持ち替えただけでファンからごうごうたる非難を浴びた時代さえ昔話になったのが80年代でした。

 80年代には周辺のどんな分野の音楽においても電 気楽器、シンセサイザーが導入されるようになります。こうなると、もうポップス、ロック、フォークといった分類が無意味になった、とも言えます。例えばアイドルであった マイケル・ジャクソンの「スリラー」においてエディ・ヴァン・ヘイレンが起用された事などは象徴的でした。逆に、リンダ・ロンシュタットが旧来のオーソドックスなネルソン・リドル・オーケストラをバックに歌ったアルバムが新鮮な感覚で受け入れられる、という皮肉な事象さえありました。
 日本においてさえ、中島みゆきのアルバムを後藤次利椎名和夫がプロデュースしたらもろロック・アレンジでしたし、アイドルのバックで演奏してるのがロック・ミュージシャンなんて光景も珍しくなくなってましたよね。

 一方でロックの側からも、他ジャンルの音楽へのアプローチが積極的になされるようになりました。スティングはソロになった途端ジャズ・シーンの最先端の面面を積極的に取り込んでいきましたし、マイケル・ジャクソンのプロデューサーに起用されたクインシー・ジョーンズはもともとがジャズ畑の人でしたしね。
 また、70年代のレゲエの侵攻に影響されアフリカ音楽等をはじめとする様々な世界音楽分野へのアプローチも活発となりました。80年代の幕開けを告げたピーター・ガブリエルIIIトーキング・ヘッズの「Remain In Light」などがその嚆矢だったように思います。

3:ノブレス・オブリージュ
 莫大な富をアーチストが得るようになると、当然ながら品行方正が求められるようになります。昔のロックスターのような麻薬漬け、ツアーでのご乱行な んかは許されない時代となりました。上流階級の人間となったスターたちはチャリティは当然の事、アフリカの飢餓への積極的な関与、政治への介入まで行うように なります。バンドエイドUSA for Africaライブ・エイドなどがそのピークでした。

 もうロックは社会の底辺の憤懣や差別への怒りを代弁するものではなくなってしまったわけで、その代替としてでてきたのがラップ音楽という新しいムーブメントなんでしょうね。

4:MTV
 80年代の特徴としてビジュアルによるプロモーション戦略が発達した事が挙げられます。もちろん6-70年代にもプロモーションビデオが無かったわけではないですが、やはり何 と言ってもMTVの登場は革命的でした。ポップチューンとリンクする事で数多くのメガヒットを誘導しましたし、芸術的創造を試みるトーキング・ヘッズのようなアーチストも現れました。
 選出されるであろう80年代のベスト10で、MTV作品の入っていないアルバムはおそらく殆どないでしょう。マイケル・ジャクソンの「The Thriller」なんか、あの映像がセールスに恐ろしいほどの拍車をかけた事は想像に難くありませんね。

5:CDの登場
 80年代後半にはアルバム作りの基本がLPからCDに移行していきました。A、B面がありそれぞれが20分程度という分かりやすくてコンセプトも作り やすい構成から、79分程度まで何曲でも入れられて、順番も聴取者が勝手に選択できるメディアに変わってしまった事が、アルバム作りに影響を及ぼさなかったはずが無いと思います。
 まあ、CDの音質が当初ひどかった、というオーディオファイル的な愚痴はともかくとして、10曲以上入っていて切れどころがなく通しで聴くと一時間近く(あるいはそれ以上)かかる、という構成はLP世代の自分には未だに苦痛ですね。

 とまあこんな具合で、社会人になってとても音楽に集中できるような状況じゃなくなった事もありますが、それでなくてもこういう時代では音楽に興味が薄れて いっても仕方なかったんじゃないかと今更ながらに思います。特に殆ど理解不能のラップの台頭、更にCD時代が始まった頃から急速に購買意欲が消腿していった事は否めません。

 まあそんな中でも素晴らしい作品は産まれ続けていた訳で、次回記事ではレココレ評論家に習って25枚を選んでみようかと思っています。