ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ES細胞騒動に思う

 バイオ研究立国を目指す韓国が今大変なことになっています。

リンク: asahi.com: 初のES細胞存在せず? 韓国の黄教授、論文撤回へ�-�サイエンス.

 ES細胞(embryonic stem cell)というのは文部科学省サイトを参照していただけると幸いですが、初期の胚の細胞を培養して得られる、これからどんな組織の細胞にでも分化しうるという細胞です。臟噐移植等に大いに期待されており、今世界の研究者がそれこそ一分一秒を競って最先端で鎬を削っている分野でしょう。

 もちろん臟噐移植等を念頭に置いた場合、研究に最も適切な細胞はヒト(homo sapiensを意味する学術用語です)の細胞ということになります。ところが、ヒトのES細胞を作るということはとりもなおさず

 受精したヒト細胞を殺してしまう

ことに他なりません。すなわちごく小さいといえど、ヒトの生命を奪ってしまうことになります。
 どの段階からヒトいえるのかは昔から散々議論されてきましたが、学術的にはともかく倫理的な面では議論して結論の出る問題でもありませんから、未だに堕胎を認めているところ(あるいは宗教)と認めていないところがあるのはご承知のとおりです。

 以前このブログを始めた頃、中国での胎児細胞移植の話題に際して、欧米等の倫理規定の難しい国では研究しにくいことが、緩い国では平気で行われている旨の記事を書いた事がありました。今回もまさにそのような問題が根底にあります。
 最先端を行きたいアメリカでは倫理規定にがんじがらめに縛られて指をくわえているしかない状況の中で、韓国は国が後押ししてガンガン研究を進めてきたわけです。黄教授はこのヒトES細胞研究で遅からず

ノーベル賞を取るだろう

と国内では大変期待されていたようです。ところがアメリカ人の共同研究者に、

研究室の女性の卵子を買っている

旨の内部告発をされて大スキャンダルに巻き込まれたかと思うと、今度は

サイエンスに投稿したES細胞が実は存在しない

という決定的なダメージを食らうニュースが出てしまいました。
 サイエンス
という雑誌は研究者なら誰もがあこがれるノーベル賞にもつながる権威のある雑誌です。逆に言えばその論文が嘘だったということがばれればもう研究者生命は断たれたということになります。

 国民の英雄ともてはやされていた方ですし、韓国民の衝撃は相当のものでしょう。上述したように、もともとヒトES細胞を作ることに関しては

黄色人種は何をやってもかまわないと思っているのか

という欧米からの冷ややかな目があったことも事実でその上

嘘つきの人種なのか

と嘲られる事を韓国は国として怖れているでしょう。

 倫理観と良心、これは当然研究者としてなくてはならないものです。一方で一分一秒を争っている最先端研究の世界ではデータ捏造という悪魔の誘惑が常にあるのも事実で、日本でもついこの前阪大であったばかりです。自分も昔研究者の端くれでしたから、誘惑に負ける人を単純に弱い人間とは責めることはできません。だから一人がそのような方向へ突っ走らないように何重ものフェールセーフを研究室、研究機関がかけておくべきでしょう。そして今回のような大きなテーマでは国単位での監視も必要なのでしょう。
 日本でもヒトES細胞研究の開始をめぐってはどたばたしているようですが、今回の韓国の事件を他山の石として、くれぐれも拙速な研究競争への参加をしないで欲しいものです。