ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

To Kill The Child Part-2

 前回の続きです。Roger WatersPink Floydの初期から「狂気」に至る頃までは比較的内省的な詩を多く書く人だったように思います。これにはおそらく、"dark side of the moon"に行ってしまったシド・バレットの影響が大きかったと思われますが、彼との訣別的なアルバム「」でいったん自分の中で区切りをつけたと思われ、続く「アニマルズ」、「ザ・ウォール」では社会へ目を向けたメッセージ的な作品が多くなりました。そのあたりからメンバーとの齟齬が生じ始めたのでしょう、ソロになってからは"Amused To Death"に代表されるように更に直截的に文明批判を展開するようになりましたね。

 個人的なことを言わせていただくと、内省的で静的な印象のある「炎」と言う作品はPFの数ある作品群の中でもとりわけ大好きです。怪物的な傑作だった「狂気」の次の作品だったこともあり、一般には地味な印象しか持たれていませんが、ロジャーにとっても思い入れの深い作品であるらしく、2年前の公演では”狂ったダイアモンド”を完全再演していました。表題作であるシドへの思いを歌った”Wish you were here"は古いラジオのようなSEから始まりメランコリックなギターの音へとつながるイントロがとても印象的で、”If"(原子心母所収)と並んでロジャーのバラッドの代表作と呼べるのではないでしょうか。
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 ですから、現在の彼が社会へ向けて積極的にメッセージを発信しているということには色々と複雑な思いもあります。ストリーミングで流している2曲のうちの"Leaving Beirut"がブッシュ政権への強烈な批判であることは前回申し上げましたが、それが今までの文明批判の延長線上なのか、それとも歌詞のとおりの体験を実際にしての個人的思い入れなのかは判りませんが、新アルバムが出たら買ってみてその辺りも探ってみたいと思います。

 さて一方の"To KIll The Child"は直接的にはイラクやブッシュ等の具体的な名前は出てきませんが、衒学的修辞をちりばめた彼らしい曲だと思います。難解で手に余るところもありますが自分なりに訳してみたくなりました。もとの歌詞は冒頭のリンクから入っていけば見られますので御意見御批判等あれば遠慮なくお聞かせください。

”To Kill The Child"
星の降る夜その子はお気に入りのドナルドダックの灯かりの下安らかに寝入っている
そのような命を奪うとは、子供を殺す道を選ぶとは、なんというおかしなことをするのだろうか
フーヴァー、ブラウプンクト、日産ジープ、ナイキ、ラコステ、その他もろもろの安ブランド、
キャディラックアムトラック、ガソリン、ディーゼルーーー
それらすべては現在の我々の生活のスタンダード、そのようなものが
その子を殺す道を選ぼうとする理由になるのだろうか
その子を殺す道を選ぼうとする理由になるのだろうか

アラー、エホヴァ、仏陀、キリスト、孔子、カリ、共産主義、豆と米、舌平目のグージョン、リ・ド・ヴォー、豚の足肉、サーモンとクリームチーズのベーグル、骨付き肉、そして石に刻まれた戒律、聖書、コーラン神道イスラム、プロシュット(生ハム)、リゾット、ファラフェル(ヒヨコ豆のコロッケ)、そしてハムーーー
一体ドグマなのか、ドーナッツなのか、冷やかしの誠意なのか、邪悪なものへの畏怖なのか、それとも恥辱?それとも汚名?
その子を殺す道を選ぼうとすることは
その子を殺す道を選ぼうとすることは

砂漠は冷え込み、
宇宙は大きすぎるのに
救助ロープは短かすぎ、
そして壁は厚すぎる。

俺はお前に弱みなど見せない、
俺は歌でお前を嘲ってやろう、
しかりつけて馬鹿にして、
侮ってたしなめてやる。
お前を棒で打ちすえ、
お前の家をブルドーザーでぶっ潰してやる
カエサルのローマへの道のような俺の勝利への道をお前は見物できるだろう、お前の家の特等席ででも、十字架に張り付けられてでも

一体これは怒りなのか、ねたみなのか、それとも損得勘定なのか
その子を殺す道を選ぼうとすることは
その子を殺す道を選ぼうとすることは

この子を呼び寄せて強く抱きしめてやってくれ
聖なる恐怖統治から守ってやってくれ
この子を呼び寄せて強く抱きしめてやってくれ
この子を道徳的な高みへ連れて行ってやってくれ
この地球の中庭で戦いをやめない頑迷な政治家やその用心棒どもを見下せるような高みへ連れて行ってやってくれ

注)フーヴァーはアメリカの大手家電メーカーだと思います。ブラウプンクトはおそらくドイツのカーオーディオメーカーのことだと思います。グージョンと言うのはフランス料理のひとつで魚の切り身の油揚げを指します。哲学、宗教と料理食物をごっちゃに羅列するところがなんともにくいですね。だからドグマなのかドーナッツなのかというところは韻を踏んでいるのだとは思いますが宗教も食べ物も同じ次元のものではないかという彼の主張もあるのでしょう。bigot and bully boysというのはUSAと多国籍軍を指しているのかもと思うと日本も当然入っているわけで胸が痛みますね。

長文を読んでいただき感謝します。さすがに今回はちょっと疲れました(^_^;)。